スポーツQ&A

スポーツQ&A

スポーツQ&A(医学編)

以前は運動中に水を飲むと叱られましたが最近では飲んでよいといわれています。なぜですか?
 
以前は運動中に水を飲むと叱られましたが最近では飲んでよいといわれています。なぜですか? かつては、多くの指導者はもちろんのこと、選手自身も運動中に水を飲むことをタブー視する傾向がありました。その言い分として、・精神力や根性を養う・緊張感や集中力が失われる・バテる、動きが鈍くなる・生水や冷水は腹をこわす等のようなことが挙げられます。
 ところが、最近では運動中の水分摂取は、日射病や熱射病を防ぐばかりでなく、高温下での競技力の低下を防ぐのに効果があることが証明されています。(下図参照)
 水の飲み方としては、我慢した後で一度にガブ飲みするよりは、「一定時間ごとに水飲みタイムを設けて少量ずつ飲む」のが最も効果的と言われています。なお、発汗量が多い場合には、水分とともに少量の塩分(水1?につき食塩2g程度の濃度)を摂ると筋肉の熱けいれんの予防にもなります。アメリカなどでは、10数年前から「水を飲め、水分を補給して日射病を防げ」というキャンペーンを起こしています。スポーツには危険がともないがちですが、科学的な知識に基づく正しい指導で危険を回避するのも指導者の大切な役目です。

●高温下のスポーツ活動−−−こうなったら赤信号
顔面が急に蒼白になり全身脱力感
激しい口渇・脱力・倦怠感
頭痛・吐き気・嘔吐
意識の喪失
発汗の停止
体温の上昇
〔脱水症、熱射病〕 
試合中あがって、実力を発揮できないことが多い。どうしたらよいですか。
 
 「あがり」とは、過度の情緒的興奮によって神経支配が乱れ、心身が正常に働かなくなり、精神を集中したり自己を統制することができなくなった状態をいう。したがって、「あがり」対策は、すっかりあがってしまってからでは遅いので、あがりつつあるときに早めに対処する必要がある。
 「あがり」を誘発する要因のひとつは、試合場の雰囲気、観衆、相手、周囲の期待など場の圧力であり、もうひとつはこれらの外的刺激に影響されやすい自我の体制の弱さである。両要因の相互作用によって、気負いすぎたり、勝敗にこだわりすぎたり、失敗に対する不安が増大したりする。
 「あがり」の兆候には、
1. 自律神経系の緊張(のどがつまったような感じ、尿意をもよおす)
2. 自我機能の混乱(ぼーっとする、落ち着こうとしてかえって焦る)
3. 運動機能の混乱(手足が思うように動かない、動作に不必要な力が入る)
4. 不安感情
5. 劣等感情 などがある。
1の緊張のサインに対して「あがってる、どうしよう」と受けとめるとますます動揺し、混乱してしまうので危険である。「過度な緊張は必要なもの」とか「誰でも試合ではあがるもの」と気楽に受けとめた方がよい。
 試合に当たっては、2の混乱の状態に陥らないように意識をはっきりさせておく必要がある。柔道の選手の「タタミの目を数える」テニスの選手の「今すんだラリーを思い出す」「ラケットのガットをなおす」の他、「呼吸に注意を向ける」「試合場を見回して基本色を探す」なども参考になる。
 3も1と同様に緊張のサインであり、リラックスする必要がある。特別な訓練を受けていなくとも、ゆっくり行動する、深呼吸をする、手足を軽く動かす、などが役立つ。
 4,5のマイナスの感情や思考は、周囲の期待や結果としての勝敗に拘りすぎるために起こる。
 まず、次のように思考転換するとよい。「試合は練習の一環」「背伸びするな、自分の力を出せ」「先を考えるな、今のプレイをしっかりやれ」「負けたときの言い訳でなく、勝っための方策を考えろ」などがあげられる。
 そしてこの後、どのようにプレイするかの過程(技術や戦術面)に注意を向けるようにする。

〔文責:海野 孝(宇都宮大学教授)〕 
児童期の過度なスポーツが問題になっていますが、具休的にはどんな悪影響があるのでしょうか。
 
 過度なスポーツ活動の問題点
 近年、小学生のスポーツ活動は、かつてないほどの隆盛をみせており、全国規模の各種大会が実施されるに及んで、一部には過度な勝利指向に起因する弊害が問題視されるようになってきています。
 ここでは、過度な勝利指向に起因すると思われるいくつかの問題点を取り上げてみます。
?運動障害
 児童期は、心身ともに成長が著しいときです。とりわけ骨や関節は青年や成人にくらべて無理な運動による障害を受けやすいのです(使い過ぎ症候群)。その障害が取り返しのつかない場合には、スポーツ好きの子どもを「スポーツができない子ども」にしてしまう恐れがあります。
 この期のスポーツ障害の主なものには、野球ひじ、サッカー足(足関節の障害)、ランニングひざ、脊椎分離症、疲労骨折などが挙げられます。
?心への悪影響
 過度な練習によって、「こんなに苦しい練習を二度としたくない」と感じさせてしまい(燃え尽き症候群)、上級学校に進学したときに同じスポーツを選択しないケースが増えているということが、各方面から指摘されています。
 また、勝利を過度に重視するあまり、技能の高い者を特別扱いすることなどによって、自己中心的性格や優越感を助長させたり、反対に技能の低いものには必要以上に劣等感を抱かせるなどの問題も生じています。このような差別的な扱いを受けた者は、燃え尽きと同様、スポーツから離脱していく傾向がみられるという点で問題です。
?教え過ぎによる"指示待ち姿勢"
 勝ちを急ぐあまり、指導者がとことん教え過ぎるという光景もよく見聞きします。こうなると子どもはスポーツの主体者になれず、自分で考えたり工夫することができず、常に指導者の指示を待つ、いわゆる"指示待ち人間"を作ってしまいます。これでは将来、自分で考えたり、判断したりしなけれぱならない場面において、適切な判断ができず、スポーツ選手として大成するうえでもマイナスになってしまいます。このことは、日本では少年スポーツとしては世界で一流だったスポーツが、成人スポーツになると、世界で二、三流になってしまう原因の一つとも言われています。

〔文責:宇都宮大学名誉教授 西 順一〕
〔引用文献:栃木県教育委員会、「健康・体力つくり情報、第4集、児童の健康・体力つくり」〕 
準備運動などにストレッチングがよく行われますが、ストレッチングの利点は何ですか。
 
 ストレッチング(Stretching)とは筋肉を伸展することです。筋肉の伸展には大きく二つの方法があります。ひとつは、従来から柔軟運動(柔軟体操)として行われてきた反動や弾みを利用して行う動的ストレッチングです。もうひとつは、無理をしないでしばらく(10〜30秒間程度)伸ばし続ける静的ストレッチングです。現在一般的に「ストレッチング」という場合は、後者の静的ストレッチングを意味します。(以後、ストレッチングは静的ストレッチングを意味します。)
 これまでのいくつかの研究は、ストレッチングの方が従来からの反動的ストレッチングよりも柔軟性を高めるのに効果が大きいことを報告しています。なおストレッチングが反動的ストレッチングより優れている理由として、主に次のような点が上げられます。
? ストレッチ反射(伸張反射)を伴わずに筋肉を伸展するので、筋肉を痛めずに柔軟性を高めることができる。
 ストレッチ反射とは、筋肉が急に引き伸ばされることによって起こる筋肉の伸び過ぎによる障害を防止するための筋自体の一種の防御反応(収縮)です。急に筋肉を伸張すると、ストレッチ反射による筋肉の収縮が起こり、筋肉が伸びにくくなります。また、自己もしくはパートナーによって筋肉が急激に強く引き伸ばされると、筋肉を痛める危険性があります。
 一方、筋肉にはゆっくりと伸ばされると、伸ばしている筋肉の緊張がゆるむ性質があります。このことによって筋肉が弛緩した状態で、ストレッチングを行うことができます。
? 自己の柔軟度に応じて無理なく行うので、生理的伸展限界を越えて伸展される危険性が少ない。
 ストレッチングは、原則として一人で行うことによって生理的伸展限界を越えること(オーパーストレッチ)による筋肉の障害を避けることができます。
? ストレッチングは、準備運動としてばかりでなく、整理運動としての効果も大きい。
 特に激しい筋運動の後では、運動に使われた筋肉は著しく短縮した状態にあるために、その筋肉をストレッチングで正常の長さに戻してやることによって、筋肉の疲労回復を早めたり筋疲労による筋肉痛を軽減することができます。ただし、整理運動として行う場合は、30〜60秒間とやや長めに行う方が効果的です。
 このほか、ストレッチングは、スポーツによる突発的なけがの予防だけでなく、使い過ぎによる障害(使い過ぎ症候群)の予防にも大変効果があります。

〔文責:宇都宮大学名誉教授 西 順一〕
〔参考文献:小林簑雄、竹内伸也「ストレッチング」講談社〕 
スポーツ競技における「動機づけ」と競技成績との関連について。
 
 「動機づけ」とは、ある人に、なんらかの行動を起こさせ、その行動を一定の目標に方向づける過程を意味します。ところが、スポーツ界をも含めて一股的には、行動を起こさせるための意欲を喚起する(やる気を起こさせる)意味で用いられています。ここでは動機づけを後者の意味で用い、この質問も、競技に良い成果を上げるための意欲の喚起と競技成績との関連でお答えすることにします。
 とかく日本のスポーツ選手は、外国の選手にくらべてオリンピック大会のような国際大会には、緊張しすぎて日ごろの実力が発揮できないと言われてきました。これなどは、日本の代表としてまた競技団体や郷里の強い期待感が、選手にとっては「どうしても勝たなくては」と過度に強い動機づけとなり、それがかえってプレッシャーとなって実力が発揮できない例と言えます。
 反対に、前日に飲み過ぎたり寝不足で競技に臨んだときなど、よもや負けると思わなかった相手に簡単に負けてしまうということもあります。これなどは競技で「勝ちたい」とか「ベストを尽くしたい」という動機づけが弱すぎることが、既に前日の過ごし方をも併せて失敗している例です。
 一般的には、動機づげが高くなるにつれて競技成績も高くなると言われておりますが、上の例でもわかるように、動機づけが強過ぎても弱過ぎても、競技成績にマイナスになります。スポーツ心理学の研究によれば、スポーツ競技における最高の成績や記録は、最適な動機づけ水準で得られることを明らかにしています。
 ところで、動機づけの最適水準は、運動技能の性質や種類によって変化し、また、選手の性格などの個人差によっても影響されます。メンタルな面から言えば、一般的に運動技能が比校的単純で容易な場合(ウエイトリフティング、短距離走)には、動機づけの最適水準は高くなり、複雑で困難な技能(アーチェリー、ゴルフ)になると、その水準は低くなってきます。これらの中間に位置する技能(バスケットボール、サッカー、野球、器械体操)では、その水準は中間レベルということになります。
 また、性格的に不安傾向や神経症傾向が高い選手及ぴ内向的な選手は、それらの低い選手や外向的な選手よりも、動機づけの最適水準がやや低いところにあると言われています。したがって、前者の場合には強い動機づけを極力避けるようにして、逆に、後者は動機づけを比校的高くする工夫が望まれます。このように動機づけの最適水準は、運動技能や選手の性格などによっても異なるので、これらの関連を十分理解したうえで、適切な動機づけの方法を考えていく必要があります。こうしてみると、コーチや指導者は、むやみに選手を鼓舞激励するのではなく、時には過度の緊張から選手を解放してやるなどして、選手が最高のプレイができるように最適水準に導いてやる工夫も大切です。

〔文責:宇都宮大学名誉教授 西 順一〕
〔参考文献:財団法人日本体育協会『B級スポーツ指導員教本』〕
 
スポーツ競技における「動機づけ」を高めるためのコーチングについて説明してください。
 
 一般に、選手への「動機づけ」(やる気、意欲づけ)が高くなるにつれて、競技成績も高くなります。ただし、高過ぎる動機づけはかえって競技成績を低下させる原因になります。
 今回は、動機づけを高めるためのコーチング(指導方法)について説明します。

〔方法1〕努力すれば達成可能な目標を設定する。
 運動の練習成果については、具体的な目標をもって練習に臨んだグループと具体的な目標を持たないグループでは、前者の方が練習成果が高いという研究結果が示されています。また目標の高さについては、例えば、立ち幅跳びにおいて達成可能性の異なるいくつかの目標(最大跳躍距離の100%、110%、120%、130%の目標)を与えた場合では、110%の目標のときに最大の成績が得られ、120%、130%と目標が高まるにつれて成績が低くなっています。このことからも、動機づけとして最もふさわしい目標は、「努力すれば達成可能の確率が高いレベルの目標」ということがいえます。なお、目標は、何回、何m、何秒などのように明確で具体的であるほうが望ましいといえます。
 このほか、技能の習得(できた、できない)のように目標のレベルが数値で表わせないものについては、「成功の見込が50%、言い換えると、成功するかしないかが五分五分ぐらいの挑戦目標」のときに強く動機づけられるともいわれています。

〔方法2〕成功体験と失敗体験のバランスをとる。
 成功や失敗は、個人が設定した目標や期待の高さである「要求水準」と深い関係があります。つまり、一般的には、得られた結果が、要求水準を上回っている場合には成功感情が生れ、逆の場合には失敗感情をもつようになります。成功体験は自信につながり、次の目標達成の原動力になります。しかし、成功体験ばかりだと、新鮮味がなくなり挑戦意欲も低下する傾向がみられます。逆に、連続的な失敗体験は動機づけを低下させるばかりでなく、ときには無力感を形成させることが報告されています。これは「学習された無力感」と呼ばれ、あきらめ、絶望感、無力感を誘発するという点で動機づけとしてはマイナスに作用します。
 クラッティー(Cratty)は、最初に成功感情を持たせ、そのあとで失敗を経験させると、はじめの成功によって生れた自信から、たとえ失敗してもそれを克服しようとする意欲が生れてくると述べています。失敗の原因を自分の能力ではなく努力不足にあることを理解させることも有効な方法です。
 このほか動機づけを高めるための方法としては、「行動の結果」を即座に知らせる、「行動の主体は自己である」という意識を持たせることなどが挙げられます。

〔文責:宇都宮大学名誉教授 西 順一〕
〔参考文献:財団法人日本体育協会『B級スポーツ指導員教本』〕 
イメージトレーニングの効果と方法について教えてください。
 
イメージトレーニングとは、外部から見えるような身体運動を伴わずに、頭の中で運動場面や運動遂行の様子を想像して行う練習方法のことです。この方法の主な目的は、運動技能の習得や運動の遂行をより効果的にすること(メンタルプラクティス)ですが、この他に不安や緊張を取り除いたり、注意集中や意欲を高めるなどの心理的なコンディションづくりにも応用されます。

 〔イメージトレーニングの効果〕
 イメージトレーニングの効果は、運動する人の技能水準によって違います。一般的には次に述べるように、技能水準が高い人ほど効果が高いといわれています。
初心者: 多くの場合、初心者は最初に示された技能を観察し、その技能がどのような形で行われるかについて理解することからスタートします。この段階では、実際に自分がその技能を遂行しているイメージ、すなわち筋運動感覚的イメージを描くことは困難です。したがって、初心者の段階においては、イメージトレーニングは、技能の遂行に直接役立つというよりも、課題としての技能の理解や、連続的な運動の順序を記憶する上で効果があるといえます。
中級者: 中級者程度になると、技能の運動感覚的イメージが次第につかめるようになってくるので、イメージトレーニングを身体的な練習の補助として積極的に導入することが技能習得の効率化を促すことになります。また、この段階における練習は量的にも多くなりがちであり、障害や疲労などの問題が起きやすいため、イメージトレーニングを補助的に利用し、このようなマイナス面を補う必要性もでてきます。
上級者: イメージトレーニングの効果が最も期待できるのがこの段階です。その理由は、上級者になるほど運動感覚的なイメージが最も鮮明にしかも正確に描けるようになるからです。このことは上級者が、ある運動のイメージを描くことによって、その運動の生理的反応(脳波や筋電図)として、あたかも実際に運動しているかのようなリズミカルなパターンをもった変化が現れるようになることからも確認されています。また、単に技能習得にとどまらず、演技や試合場面のリハーサル(イメージリハーサル)及び集中力や意欲の高揚などにも利用されるなど効果の範囲が拡大されます。1)

 〔イメージトレーニングの方法〕
 イメージトレーニングの練習効果を上げるには、以下のようないくつかの条件があります。
 ?できるだけ現実感を伴うようにして練習すること。そのためには他人が運動しているのを見ているイメージでなく、自分が積極的に運動しているイメージを描くこと。?実際の身体的運動と組み合わせて交互に行うこと。?練習課題についてのイメージを引き出す言葉やこれによく似た過去の経験を利用して練習すること。?外界からの妨害刺激を少なくし、集中してイメージが想起できる状態で行うこと。?精神的疲労を考慮して1回の練習時間は3〜5分程度で行うこと。?普段からイメージを想起させる練習を行い、イメージを鮮明に描いたり意図した方向に変換させる能力を高めておくこと、などが考えられています。

〔文責:宇都宮大学名誉教授 西 順一〕
〔参考文献:
1)(財)日本体育協会『B級スポーツ指導員教本』、2)スポーツ心理学会編『スポーツ心理学Q&A』〕 
初心者のスポーツ指導で特に配慮すべき点があったら教えてください。
 
 生涯スポーツとの関連から初心者のスポーツ指導を考えると、最も大切たことは、初心者とスポーツとの出会いを大切にし、初心者がスポーツの楽しさや良さを体験することによって、いつまでもスポーツを続けたいという気持を抱かせるような指導を心掛けることです。
 初めてスポーツをやろうとする人は、「スポーツは楽しいだろうか」「技術的な面でみんなについていけるだろうか」「指導者や仲間とうまくやっていけるだろうか」など、少なからず不安を抱いているものです。このような初心者のために特に配慮すべき指導のポイソトを以下に述べます。

?スポーツとの出会いを大切にする
 スポーツを好きになるかどうかは、そのスポーツとの出会いのときが最も重要です。初めてスキーに行ったときに吹雪かれて寒い印象しか残らなかった人、あるいは最初のスキーで大けがをした人は、もう2度とスキーなんかやるまいと思うでしょう。また、初めてのスポーツ参加で自分の運動神経の鈍さを思い切り知らされた人、あるいはみんなの前で恥をかかされた人は、やはり2度とそのスポーツには戻ってこないでしょう。最初の印象がその後のスポーツヘの態度を大きく左右しますので、特にスポーツとの出会いのときにマイナスの印象を与えないように心掛ける必要があります。

?一人一人にスポーツの楽しさを味わわせる
 自発的なスポーツ活動の原動力は、何といってもスポーツの楽しさを味わうことです。初心者といっても、過去の運動経験、体力、運動能力、年令など、さまざまな個人差があります。運動が苦手な人にもスポーツの楽しさを味わわせるような指導の工夫が大切です。

?運動の必要性とその良さを実感させる
 体操、ウォーキング、ジョギングなどの運動は、どちらかというと楽しさよりも必要性の認識によって自発的活動が促される運動です。したがって、初めに健康・体力を維持するための運動の必要性とその正しい方法を理解し、体力に応じて一人一人が気持ちよく運動を行うことによって、身体でその運動の良さが実感できるような指導が望まれます。

?運動の安全性に留意する
 初心者は、その運動に必要な体力を十分に備えているとはいえません。したがって、けがの予防、ウォーミングアップ、クーリングダウンの意味を理解させ、その運動に必要な準備運動や整理運動を十分行うようにします。また、初心者は、運動に注意が奪われていると自分の周りの状況が目には入りにくいものです。したがって、ラケットやバットのような用具を使用するスポーツでは周囲の安全に注意する指導が大切です。

?仲間づくりをたいせつにする
 スポーツ活動の楽しさの一つは、気の合った仲間と一緒に活動する楽しさです。指導者と初心者という縦の人間関係ばかりでなく、むしろそれ以上に初心者同士の横の人間関係が深まるように指導することも指導者の大切な役目の一つです。

〔文責:宇都宮大学名誉教授 西 順一〕
〔参考文献:粂野 豊編著『みんなのスポーツQ&A−指導者のための基礎知識100題』不昧堂出版〕 
高齢者のスポーツ指導で特に配慮すべき点を教えてください。
 
 高齢者のスポーツにはマスターズ陸上競技のような記録に挑戦するスポーツもありますが、高齢者スポーツ人口の大部分は、「健康と楽しみ」を目的としてスポーツを行っています。したがって、ここでは健康と楽しみを目的とした高齢者スポーツ指導において特に配慮すべき点を取り上げることにします。

?健康と楽しみ、生きがいづくり」をモットーに
 高齢者の多くは、社会の第一線を退き、多くの自由時間を持っています。また、健康や体力の面での衰えや不安を感じている人も決して少なくありません。このような高齢者がスポーツを通して・健康の維持・増進をはかり、生活のなかに楽しみや生きがいを見出すことができれば、それに関与したスポーツ指導者は、単なるスポーツ指導の枠を越えて杜会福祉に貢献したことになります。急テソポで高齢化杜会が進んでいる我が国においては、上記のような考え方に立った高齢者のスポーツ指導が今後ますます重要視されることになるでしょう。

?安全第一を心がける
 年をとると体の抵抗力が衰えるために、若いときのような無理がきかなくなります。そのためには炎天下や極端に寒い時の運動または強過ぎる運動は避けるようにしましょう。運動強度の面から安全であるかどうかをチェックするには、脈拍数でみるのが簡単な方法です。一般的には60才代では110〜130拍/分、70才代では100〜120拍/分が望ましいでしょう。高齢者の間で最も人気のあるゲートボールでは、ゲーム中の平均脈拍数は100拍/分前後ですが、興奮してプレーすると140拍/分以上にも上昇することがあります。「年寄りの冷水」にならないためには、「やたらに競わせない」ことと「マイペースで運動できる」ように指導することも大切です。

?「仲間づくり」を大切に
 高齢者がスポーツを行う理由は、「からだを丈夫にするため」(43.8%)、「楽しみのため」(40.0%)、「仲間どの交流」(37.4%)が主なものです。特に、高齢者スポーツの指導者には、「仲間づくり」を大切にする指導が期待されます。「仲間づくり」には、スポーツ仲間の横の関係を大切にすることと合わせて、「おしゃべり」の場や機会を設けることが大切です。スポーツの仲間とおしゃべりする中で自分を知り、相手を知って孤独感や不安感が除かれ、情緒が安定し、精神的ストレスからも解放されるなどによって、豊かな生活の一助になるからです。

?個人差に応じた指導を心がける
 高齢者は、長年運動を続けてきた人と、初めて運動しようとする人では、体力的にも技能習得の面でも大きな開きがあります。また、運動の目的そのものも多様です。このように個人差の大きい高齢者に、画一的な技術を押しつけたり、同じ活動量の運動を要求することは、結果として不適応者を生み出すことになります。高齢者は新たな適応が難しいだけに、特に個人差に応じた指導が大切です。
 以上述べてきた他にも、高齢者にはメディカルチェックや十分な準備運動・整理運動が必要です。

〔文責:宇都宮大学名誉教授 西 順一〕
〔参考文献:栃木県教育委員会『健康・体力つくり情報−第2集−高齢者の健康・体力つくり』〕
 
最近、「わかって」「できる」指導が大切と言われますが、その具体的な理由を教えて下さい。
 
チームの監督が競技中の選手に対して、「もっと、○○○へ動け!」とか「いつも練習していることが、どうしてできないんだ!」などと、どなっている光景を目にすることがありませんか。どなられている当の選手でも、やろうとして、わざわざまずいプレイをしているはずはたいのです。ではなぜ、このようなことが起こるのでしょうか。

 練習中に指導者から与えられるアドバイスやフィードバック情報(肯定的または矯正的情報)は、技能や動作の進歩、改善に大いに役立つことはよく知られています。
 ところで、練習中、指導者が一方的に指示や指導をし、選手はそれをただ忠実に反復練習しているような光景をよく見かけます。実際の競技場面では、選手は指導者から直接の指導やアドバイスが受けられない状況下でプレイする方が多いはずです。日頃の練習の中で、指導者の一方的な指示や指導に慣らされている者は、競技場面においても、教えられたパターンでしかプレイすることができないものです。ところが、実際の競技場面では、相手の力量やプレイ・スタイルも異なり、選手自身が状況に応じた臨機応変な判断を求められることになります。このような点を考慮しますと、日頃の練習においても、「技術」(できる)と「状況判断」(わかる)とを結びつけた練習が必要になります。選手が指導者に言われた練習をただ機械的に繰り返すことは、選手自身が自分で判断する努力を怠ってしまい、自らの判断でプレイする力を育てていないことになります。
 もうひとつ別の例を取り上げてみましょう。テニスやゴルフのように、ラケットやクラプの正しいスイングのやり方はわかっているのに、いくら練習しても思うように上達したいということは多くの人が経験していることです。このようなことが起きる原因は、自分の動きを自分で十分理解していないところにあります。どこが悪いかがわかれば、直しようもありますが、それに気づかなければ直しようもありません。したがって、指導者は、正しいやり方を教えるだけでは、いくら熱心に教えても片手落ちです。いかに自分の動きを認知させるかが指導のポイソトということになります。
 このことに関連して、非常に示唆的な研究が工藤によって紹介されています。私たちは、動作をやり終えた練習生に対して、すぐアドバイスしてやることが親切な指導であると思っています。スウィネンという人は、そのようなやり方の練習効果を、動作結果についていったん自己評価させ、その後で教えるやり方と比較しました。その結果、いずれのやり方でも、練習直後のテストの成績はほぽ同じだったのに、時間をおいてテストされると、結果がすぐに知らされた人達の成績が大きく低下したのに対し、自己評価した人達の成績はほとんど低下しなかったのです。この結果についてスウィネンは、自分の動きを自分で点検してみることによって、再認機能が強化されたためであると説明しています。実はこの再認機能こそ、自分の動きを認識する能力そのものなのです。
 以上のことから、練習はただ言われたことを反復したり正しい動きを「体で覚える」(できる)だけですむのではなく、「頭で理解する」(わかる)という認識的側面も大切ということになります。

〔文責:宇都宮大学名誉教授 西 順一〕
〔参考文献:工藤孝幾「個人的スポーツの技術学習における子供の自発性と教師の指導性」学校体育 1992.5. 26〜28頁〕 
スタミナをつけるための栄養と食事のとり方について教えてください。
 
スタミナをつけるための栄養と食事のとり方について教えてください。  最近、「スポーツ栄養」という言葉がよく聞かれるようになり、指導者及ぴ競技選手に対して、スポーツと栄養の関係についてのわかりやすい情報がたくさんでてきています。
 健康の保持増進には、運動・栄養・休養の三つの要素が必要であると言われていますが、さらに積極的にスポーツを楽しむ人や競技スポーツをする人にとっては、栄養の知識を持ち、自分の食事をコントロールすることは、競技力を向上させるために不可欠なことです。
 ここでは、食事の基本とスタミナをつける食事についてお答えします。

*食事の基本を覚えましょう
 栄養とは、食品の中に含まれている栄養素(糖質、たんぱく質、脂肪等)が体のなかで組み合わされながら、必要な働きをすることですから、これだけでスタミナがつくという食べ物はないのです。基本の食事の上にスタミナをつけるための食ぺ物をとることを覚えてください。

*スタミナをつけるために(持久力アップ)
 一定の運動を持続できる時間が長いほどスタミナがあるといいます。そのエネルギー源となる栄養素は主に糖質と脂肪ですが、その使われ方は運動の強さや内容によって異なります。100m〜400m競走や重量挙げなど短時間に集中的に行われる激しい運動では糖質がエネルギー源の中心となり、ジョギングやマラソンのように長時間続けて行われる持久的運動では脂肪がエネルギー源として積極的に使われます。
 ところで、糖質を効率よく燃焼させるためにはビタミンB群が必要です。ビタミンB群を含む食品には豚肉・レバー・強化米・小麦麦芽・卵・納豆・さば・うなぎ・チーズなどがあげられます。
 脂肪は少量でたくさんのエネルギーを産生する効率のよいエネルギー源です。毎日バランスよく食ぺていれば、体内に十分蓄積されるので積極的にとる必要はありませんが、乳製品や卵の脂肪はエネルギーに分解されやすく、たんぱく質も同時にとれるので、一朝食や昼食でとることは有効です。
 夕食で脂肪の多い食事をとることは、その後活動しないとエネルギーとして利用されず、からだに蓄積されて太る原因にもなりますからひかえめにしましょう。

〔文責:保健体育課主任管理栄養士 駒場啓子〕
〔参考文献:鈴木正成「実践的スポーツ栄養学」文光堂〕 
スポーツをする女性や子どもの食事管理について配慮すべきことを教えてください。
 
スポーツをする女性や子どもの食事管理について配慮すべきことを教えてください。  スポーツをする女性や成長期にある子どもの食事管理は、まず、基本となる食品の組合せを覚えることが大切です。いろいろな食品をとることにより、それらに含まれる栄養素が互いに結ぴつきながら、効率良く働くのです。(例:エネルギーを燃焼させるにはビタミンBが必要)
 次の表で1日にとる食品の目安を覚えましょう。

*貧血を予防しよう
 スポーツをする女性が特に注意することは貧血です。体にとり込んだエネルギー源を燃焼させるためには酸素が必要ですが、酸素を運搬するのは、鉄とたんぱく質からなる血液中のヘモグロビンの役目です。激しいトレーニングを行うスポーツ選手は鉄が不足しがちですが、女性は月経により鉄の損失があるので次の事項を参考に貧血予防を心がけましょう。
1.鉄を含む食品をとりましょう。鉄の多い食品:レバー、ひじき、あさり、切り干し大根、大豆等
2.たんぱく質は鉄の吸収を高めます。肉類、魚の赤身は鉄も多く含まれているのでとりたい食品です。
3.ビタミンCは鉄の吸収を高めます。野菜、果物(柑橘類)をとりましょう。
4.食事中、前後には、鉄の吸収を阻害するタンニンを含む食品(緑茶、コーヒー、紅茶)をひかえましょう。

*ごはんと牛乳でパワーアップ
 成長期にある子どもがスポーツをする場合は、体づくりのための食事が基本となります。(表参照) その上で、スポーツをするためのエネルギーと筋肉や骨をつくるためのたんぱく費やカルシウムを十分にとることが大切です。
 現代の子どもは食事の時おかず中心に食べる傾向がありますが、エネルギー源となる主食(ごはん、パン、めん等)をしっかり食べないとスタミナがもちません。
 また、たんぱく質やカルシウムをとるためには1日2本の牛乳はかかせません。さらにスポーツ選手は発汗のためカルシウムが排泄されますので、これ以上の牛乳か乳製品(ヨーグルト、チーズ)小魚、ごま、海草等を積極的にとりたいものです。そのためには、間食の内容をもう一度考えてみましょう。

〔文責:保健体育課主任管理栄養士 駒場啓子〕
〔参考文献:殖田友子「頭で食べて強くなる」大修館書店〕 
たばこはスポーツにマイナスといわれますが、その理由は何ですか。
 
たばこはスポーツにマイナスといわれますが、その理由は何ですか。 喫煙がスポーツにどれだけ不利になるかを実験的に示すことは難しいといわれています。それは実験が難しいことや喫煙の影響に対する個人差が大きいなどの理由によります。しかし、これまでにスポーツと喫煙の関係を調べた例がありますので、その中から2、3の結果を紹介することにします。

(1)気道抵抗の増大
 気道抵抗とは、鼻や口から吸入された空気が気道を通る時の抵抗を意味します。,この気道抵抗が少ないほど空気はスムースに肺に運ばれます。運動をしているときは、交感神経の緊張が高まることによって気管支が拡大し、気道の抵抗を低下させ(気道抵抗の低下)、より多くの空気を肺に取り込みやすくします。ところが数秒間たばこを吸うと、10〜30分にわたって気道抵抗が2倍から3倍に上昇した状態が続きます(Comroe,1966)。これは喫煙によって気管支平滑筋が収縮するために気道が一時的に狭くなるためです。また喫煙は気道内の粘液の分泌を増加させ、それが気道抵抗増大の原因にもなります。したがって、喫煙の慢性的影響としては気道の狭窄と分泌の増加による気道抵抗の増大を促すことになります。酸素をたくさん必要とする運動には不利になります。

(2)心拍数の増大
 たばこを吸うと、たばこに含まれるニコチンの作用によりカテコールアミンの分泌が亢進し、その影響で血管が収縮して血圧が上昇し、心拍数が増加します。ヘンダーソン(Henderson,Y.)は、喫煙による心拍数の増加は、運動時における心臓の活動の上限に制限を与える結果になって望ましくないと述べています。それは安静時において支障のないことであっても、激しい運動では支障になることが起こり得るからです。下の図は、喫煙と運動が心拍数に及ぼす影響を示したものです。
 1本の喫煙が心拍数の増加を招き、その増加は身体運動と複合したときに一層顕著になります。特に喫煙と運動が重なった場合の心拍数の回復には長時間かかることを示しています。このことは、喫煙して運動をすると呼吸循環系への負担が増すことを意味します。

(3)酸素不足
 長時間にわたって運動を続けるには、その問に必要なエネルギーを燃焼するために、空気中より多量の酸素を吸収し続ける必要があります。この酸素は血液中のヘモグロビンと結合して体の隅々まで送り届けられます。ところが、たばこを吸うことによって体の中に一酸化炭素が吸収されます(たばこ1本当たり2〜20mg)。この一酸化炭素とヘモグロビンの結びつきの強さは、酸素の200〜300倍といわれます。したがって、このままでは体内の酸素が不足することになります。この不足を補うためには、心臓からより多量の血液を送り出さなければなりません。それだけ心臓や循環機能に余計な負担を強いることになります。
 イギリスでクロスカントリーをやった成績と喫煙との関係を調べたものによると、成績の上位から10位以内の人は、禁煙者の方が喫煙者の3倍で、下位10位内に入った人は、喫煙者が禁煙者の3倍であったということです。
 特に喫煙は、マラソン、ジョギング、自転車レース、テニスなどの有酸素運動には不利をもたらします。これらの運動は、長時間にわたって、かなり激しい運動を持続します。これに対して短距離走では、喫煙の影響はあまりはっきり出ません。その理由は、短距離走のように極めて短時間で完結する運動は、無酸素的に行われるために心臓や循環機能の関与が少ないからです。

〔文責:宇都宮大学名誉教授 西 順一〕
〔参考文献:オストランド著、朝日奈一男他訳『オストランド運動生理学」大修館書店。
猪飼道夫他編『体育科学事典』第一法規。
喫煙問題研究会編『喫煙と健康のしおり」社会保険出版社〕 
バナナは筋肉のけいれん予防に役立つといわれていますが、どうしてですか。
 
バナナは筋肉のけいれん予防に役立つといわれていますが、どうしてですか。  テレビのスポーツ番組を見ていると、テニスなどの試合中の中休みにバナナを食べている選手を時々見かけます。
 テニスのようにかなりハードな運動を長時間続けると、特に気温が高い時には、脚のふくらはぎのけいれんを起こす選手が続出します。このようなけいれんは、テニスに限らず、長時間にわたって激しい運動を続けるスポーツ選手にはよく見られることです。
 ではなぜ、このようなけいれんが起こるのでしょうか。その原因としては、試合が長時間にわたる場合や1日に数回も行われる場合、大量の汗をかきます。この発汗によりかなりの量のカリウムが汗とともに体外に排出され、筋肉内にカリウム不足をもたらします。この筋肉内のカリウムの不足が筋肉のけいれんを起こす原因といわれています。
 体内においてカリウムは、ほとんど細胞内に保有され、血液中のカリウムのほとんども赤血球内にあります。ところが細胞外液のカリウム濃度が低下すると、心臓の伝導度や収縮の異常、筋肉の麻痺などの異常が生じます。
 また、スポーツ中の発汗によって水分が体から多く失われるために血液中の塩分濃度が更に上昇します。ところでカリウムを多く含む食品はいろいろありますが、それらの食品の中にナトリウム(塩分)が多く含まれていると、血液中の塩分濃度が更に上昇することになり、血圧との関係で好ましくありません。したがって、ナトリウムを余り含まない食品という条件をつけると、かなり制限されてきます。その中でバナナはカリウムを多く含む果実であり、100g中に350mgのカリウムを含んでいます。りんごに含まれるカリウムは120mgとバナナの3分の1です。
 体内でのカリウムはグリコーゲン(でんぷん〕の貯蔵が増えると、それに伴って、体内の保持量が増えるといわれています。
 バナナは果実の中では珍しいくらい多くのでんぶんを含んでいます。サツマイモやジュガイモのでんぷんと違ってバナナのでんぷんはガスがたまりにくく、消化吸収が速いのです。それだけに消費されたエネルギーの補給にも大変有効です。
 バナナはグリコーゲンの蓄積にも有効であることを考えると、大量の発汗で損失したカリウムと激しい運動で消失したエネルギー源を同時に補給とするものとして、試合の小休止中にバナナを食べることは合理的といえます。

〔文責:宇都宮大学名誉教授 西 順一〕
〔参考文献:鈴木正成『スポーツの栄養・食事学』同文書院〕
〔引用・参考文献:寺内良男『スポーツマンの食事学』成美堂出版、90頁〕 
試合当日の昼食にはどんな食事がよいですか。
 
午前中の試合は順調にいっていたのに、甘食を食べたら、すっかり調子が狂ったという経験はありませんか。私もテニスの試合でそんな苦い経験をした一人です。食の取り方は、試合中の水分などの補給と同様に大切な要素です。
 次に参考までに、昼食の取り方について下の引用文献からの抜粋を紹介しておきます。
 「試合当日の昼食は、休憩タイムに合わせて、できるだけ消化吸収のよいもの、ビタミン、ミネラルの補給を考えて食べましょう。外食の場合はできるだけ定食ものを食べると、ビタミン、ミネラルの補給に役立ちます。
 大切なことは、栄養のバランスより、食事の内容がいかにエネルギーとして利用できるかです。運動(試合)直後や、時間がないときは多量には食べられませんし、食べても後の運動(試合)に悪影響を及ぼすものであってはいけません。
 まず、腹のすき具合によって血糖{直を高めるだけの適量と、それを効果的に利用できるためのビタミン、ミネラルの補給が必要です。
 また、激しい運動を伴うときは昼食で油っこいものはさけましょう。胃がむかついたり、おなかをこわしては大変です。具だくさんのスパゲッティーやピラフ、サンドウィッチといった単品で内容があるものがいいでしょう。」

[文責者注] ビタミン類のうちビタミンB1は、糖質を効果的にグリコーゲンに変える働きをします。
 ミネラルのうちのカルシウムは、運動中の筋肉の収縮に作用し、不足すると筋肉のけいれんのもとになります。また、神経の伝達作用や神経の興奮をしずめる作用があるので、不足すると試合中のイライラが生じやすくなります。

〔文責:宇都宮大学名誉教授 西 順一〕
〔参考文献:鈴木正成『スポーツの栄養・食事学』同文書院〕
〔引用・参考文献:寺内良男『スポーツマンの食事学』成美堂出版、90頁〕 
長時間の運動は、活性酸素を多く発生させるので健康に悪いと聞きましたが、本当でしょうか。
 
長時間の運動は、活性酸素を多く発生させるので健康に悪いと聞きましたが、本当でしょうか。 長時間運動を続け、酸素をたくさん取り入れる運動を有酸素運動といって、生活習慣病(旧名称は成人病)の予防に有効であるとされ、ジョギング、ウォーキングや水泳などが盛んに行われています。
 しかし、数年前「スポーツは体に悪い」(加藤邦彦、1992、光文社)というショッキングなタイトルの本が出され、空前の健康ブームに水を差しました。
 運動によって多量の酸素を体に取り入れることは、活性酸素という猛毒を体に発生させるので、生物的、医学的に見ても激しい運動は好ましくないとするものです。
 また、最近の研究では、肌のシミ、動脈硬化。アルツハイマー、糖尿病なども、活性酸素が大きな原因となることが明らかにされつつあります。
 「活性」ということは、元気でイキイキしているという意味ではなく、酸素に限れば酸化作用が高まることで、活性酸素の高まりは体にとって好ましいことではありません。
 この考えをサポートする研究で、体に取り入れる酸素が、少ないほうが、寿命が長かったという研究もあります。
 狭い空間で飼ったハエは、広い空間で飼ったハエより寿命が長かったとか、腹八分目の条件でネズミに運動を行わせた場合、運動しなかったネズミの方が長生きしたという報告もあるのです。
 人間にとっても、このような事例が当てはまるとすれば、例えば頑張ってランニングをすることなどは、体にとって不利益をもたらすことになります。つまり、これまでの考え方にまったく対立するものです。
 それでは運動などせずに、じっとしていた方がよい、ということになるのでしょうか。それほど簡単に活性酸素に酸化されるとしたら、我々は長生きできません。

 その証拠として運動したときは、しなかったときより酸化の度合いが低いので、必ずしも運動がストレートに生体に悪影響を及ぼさないという実験結果がいくつもあります。我々の体は活性酸素が生じても、消し去ってしまうSOD(スーパーオキシドジムスターゼ)などの酵素の働きのたかまりで、組織への悪影響を防ぐ防御機構があり、簡単に酸化は進行しないのです。
 また、野菜や果物に多く含まれるビタミンE、ビタミンC、ビタミンB2、ベータカロチンなどが、酸化を防止する作用が高いことも明らかになっています。ただ、本来持っている防御機構が食品添加物、環境汚染、化学物質などによって、機能が発揮できにくい状況になってきているのではないか、という危惧があります。
 したがって、「スポーツが体に悪い」かどうかの結論は、さらにそれを食い止める防御能力との関係など、まだまだ多くの問題を解決しなければ結論を出せない、データ不足の状況にあります。
 しかし最近(1995年)、権威あるアメリカの疾患者管理予防センターとスポーツ医学会は、「健康の維持増進のためすべてのアメリカの成人は、できるかぎり1日30分以上の中程度の運動をすべき」という勧告を出しています。
 現在、健康のためにいい汗を流している諸氏、さしあたり、我々の体に備わっている生体防衛機構の素晴らしさを信じましょう! 楽しく走ったり、泳いだり…続けても良いのではないでしょうか。

〔文責:宇都宮大学教授 益子 詔次〕
〔本文は栃木よみうり「健康 ウソ?ホント!」(平成10年8月1日、8日に掲載したもの)〕 
運動のし過ぎは、骨を弱くすると聞きましたが、運動と骨の強化について教えて下さい。
 
運動のし過ぎは、骨を弱くすると聞きましたが、運動と骨の強化について教えて下さい。  「運動すると骨は強くなりますか」と聞いたら、多くの人は、「当たり前だろう」と答えるのではないでしょうか。でも、骨の強さは栄養条件と運動量の関係から決まるので、単純に運動すれば骨が強くなるというものではないのです。
 私の研究室で行った、白ネズミを使った実験結果を紹介します。
 ネズミを、?エサを満腹まで食べるグループ、?満腹の70%量グループ、?満腹の50%量グループの3つに分け、それぞれのネズミを自由に走れる回転ケージがついた飼育装置で個別に飼育しました。回転ケージは、運動量が表示されるようになっているため、それぞれの食べた量と、運動量がわかる仕組みです。
 その結果、運動量と骨の強さの関係を見ると、運動量が最も多かったのは満腹の50%量のグループでした。しかし、骨の強さは一番弱かったのです。満腹グループの運動量は、3群の中で一番少なかったのですが、骨の強さは最も強い結果となりました。
 この結果から、低栄養条件での過度な運動は、骨の強さにはマイナスに作用することがわかったのです。すなわち、栄養条件が不十分な場合、運動を行っても効果はなく、運動量と栄養条件との関係次第では、結果は異なってくることを示しています。
 それにしても、50%量グループが、1日に10数キロメートルも走ることがわかって、驚いてしまいました。ネズミに聞くわけにもいかないので、その理由を考えてみました。
 エサが少ない環境で、ひたすらに走りつづける行動は、飢餓状態でエサを求める野生の本能による行動ではないかと推測しています。
 以前、「女子長距離ランナーは骨が弱い」という、ショッキングなニュースが報じられたことがありました。長距離ランナーの場合、食事の量は多いのですが、毎日数10キロに及ぶ過剰な運動量(練習)によって生じるものなのでしょう。
 先に、低栄養で過度な運動をすると骨にとってマイナスになることは述べました。それでは、どうしたら丈夫な骨を保つことができるのでしょうか。
 発育期の子供の場合と、成人の場合では当然異なります。発育期においては、十分な栄養と、適度な運動をして骨量を増やしておくことが、何よりも大切なことは言うまでもありません。ただ、この「適度な運動」が難しいのです。最低限、骨の発育に障害にならない範囲が目安でしょう。
 だれもが経験していることですが、身長の伸びが、止まったころから、筋肉がつきはじめてガッシリした体になってきます。発育期は骨の成長のほうが早く、それに筋肉が引っ張られた状態なので、壊れやすいために、無理をしてはいけないわけです。
 骨にとっても、腱(けん)の付着部に力がかかると、軟骨組織が引っ張られて、盛り上がってしまうオスグット病などになりやすいのです。この時期の骨は柔らかいので、発育障害にならないため、大きな負荷のかかる運動は避けなければなりません。
 骨づくりにとっては、タンパク質、カルシウムが極めて大切な栄養素です。建物にたとえると、タンパク質は柱、カルシウムは壁です。これらを同時に摂取できる点では、牛乳がもっとも利用しやすい食品でしょう。
 中高年の場合、高齢化時代を迎えた今日、骨粗しょう症の問題など、ますます重要な課題です。
 一般的に、食事量の減少や、腸管からのカルシウムの吸収率低下によって、減少し始めた骨量を増やすことは非常に難しいとされています。
 しかし、運動や栄養によって、減少する割合を少なくすることは可能です。中高年からは、筋力をつけて関節部位をサポートして、骨の弱さをカバーすることが大切になってきます。
 私の経験上、手軽に筋肉づくりができる、ダンベル体操が有効であることを付け加えておきます。

〔文責:宇都宮大学教授 益子 詔次〕
〔本文は栃木よみうり「健康 ウソ?ホント!」(平成10年7月18日、25日に掲載したもの)〕 
アルコール摂取が運動に及ぼす悪影響について教えて下さい。
 
 『酒は百薬の長』とされ食欲の増進やリラックス効果が得られることが科学的に明らかとなっています。しかし、少量のアルコールは運動能力を向上させると信じている方も実際におられるようですが本当でしょうか。百薬の長であっても運動前や運動中に摂取した場合にはパフォーマンスの低下ばかりでなく障害の発生を引き起こすため避けなければなりません。ところで、みなさんは次のような経験をされたことはありませんか?同量のアルコールを夜に飲んだ場合と昼に飲んだ場合、おそらく昼間のお酒の方が効いたはずです。アルコールは消化管からすみやかに吸収され、飲酒後30分で約80〜90%が体内に取り込まれます。ゴルフやスキーの途中で昼食時に飲むビールの一杯は何とも言えません。しかし、一杯やったその後にスコアが突然乱れたり、疲れが急にでることがあります。私たちには日内リズムがあり、朝の起床から夜の睡眠中に至るまで規則的な自律神経の調節やホルモンの分泌リズムで身体をコントロールしています。アルコールの分解は肝臓での酵素の働きによって行われますが、この酵素は昼と夜とでは働きが異なり、昼間は夜に比べて低いことが知られています。酵素の働きは個人により異なりますので自分の適量を知っておくことも大切です。
 次に、飲酒直後に運動を行うと身体にどのような悪影響があるのでしょうか?アルコールが身体に及ぼす作用をいくつか取り上げたいと思います。アルコールの働きの1つに利尿作用があります。ビールを飲むとオシッコをしたくなるのはこのためです。利尿作用が働くと体内の水分量の損失を促進することになるので発汗が抑えられ体温の上昇が著しくなります。サッカー、ジョギング、テニスなど屋外で行うスポーツでは、この作用が顕著となります。体内水分量を多量に失うと脱水症状を引き起こす可能性が高くなります。水分量が減ってしまうと血液の粘性が高まるので血液循環が悪くなるなどの影響により通常より熱中症を起こしやすくなります。また、心拍数や血圧を上昇させる作用があります。本来、運動中には心拍数や血圧は上昇しますので心臓に過度の負担をかけることになり、最悪の場合は脳・心臓血管の重大な障害を招くことにもなりかねません。さらに、中枢神経の働きを低下させ、知覚能力、集中力、判断力、平衡感覚などが低下します。このことは運動のパフォーマンスを低下させるばかりでなく、接触プレーなどの際に素早く危険を回避する動作が遅れることとなり、スポーツ外傷を誘発することにもなりかねません。また、敏捷性、全身持久力、筋持久力、瞬発力の低下があげられ運動能力は低下します。
 この様な理由から既にアメリカスポーツ医学会では運動前にアルコールを飲むことは『競技の向上に役立たないばかりか、むしろそれを妨害する』と言明しています。また、わが国のトレーニング施設に於きましても『酒気を帯びている方の利用はできません』などの注意が書かれていますが、これは生理学的に根拠があってのことです。

〔文責:宇都宮大学教育学部 助教授 小宮秀明〕
 

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