スポーツQ&A

スポーツQ&A

スポーツQ&A(科学編)

足関節捻挫について教えて下さい。
 
足関節捻挫について教えて下さい。 足関節捻挫(人体損傷)はスポーツ外傷の中でも最も頻度の高い疾患である。特に、サッカー、ラグビー、バレーボール、バスケットボールなどのプレー中にジャンプを多用するボールゲームにはつきものである。捻挫とは関節周囲の靭帯や関節包などの軟部組織の損傷で骨折や脱臼は一般に伴わないのが普通である。足関節捻挫には内側型と外側型があるが、これはジャンプをして着地する際に、つま先で着地をすると前距腓靭帯は垂直になる、又足関節背屈位で着地すると踵腓靭帯が垂直になるなことなどヒトの足の形態学上着地する際に足が外返しになりやすいため、ボールの上や凹凸のあるグラウンドなど着地場所が悪かったり、不適当なシューズをはいてプレーしたり、足外反を強制されたりすることにより発生する。捻挫は程度により1度〜3度に分けられる。

 1度は靭帯や関節包の損傷断裂もなく腫張と疼痛を伴うが比較的軽いもの、2度は靭帯の一部断裂を伴い腫張と疼痛が強いもの、3度は靭帯や関節包が完全に断裂し腫張が強く関節内出血を伴い、激痛の為歩行もできずしかも足関節の外側不安定を伴うなどに分けることができる。捻挫はあまり日常的に多く発生する疾患の為、処置も軽視されがちで、簡単に湿布などで済ましてしまう場合も少なくないが、現場の処置として重要なのは、直ちに「RICE」をとることである。すなわち、R安静(rest)、I冷却(icing)、C圧迫(conpression)、E挙上(elevation)であり、足を安静に休ませ、氷などで冷やし、局部を弾力包帯などで圧迫し、足を上げておくことである。このことにより外傷後の内出血は抑えられ腫張もとれ歩行時の疼痛が緩和され、経過も良くなる。

 1度の場合は「RICE」のみで、次の日には腫張もとれ歩行時の疼痛も緩和される。
このような場合は2〜3日の安静でスポーツに復帰できる。このときにはテーピングを併用することが好ましい。

 2度の場合のように「RICE」を施行するも、次の日も腫張も疼痛も強い場合には、約2週間のギプス固定が必要となるため専門医を訪れた方がいい。ギプス除去後、約2〜3週間の温熱マッサージなどの療法でスポーツ復帰は可能である。

 3度の場合は直に専門医を訪れる必要がある。靭帯の完全断裂が確認されたならば手術にて靭帯縫合する可能性もある。このような例には術後ギプス固定3週間、後療法を2〜3週間施行しスポーツに復帰させる。
 現場の処置で捻挫を軽視してコールドスプレーや不適当なテーピングで選手に試合を続行させることは好ましくない。特に、2度の捻挫の場合プレー続行することにより靭帯の完全断裂を引き起こしスポーツ復帰まで相当の期間を要した例は数多く見られる。特にぼきっと音がしたり、腫張が強いものは直ちに専門医を訪れさせるべきである。3度の捻挫を放置しておくと断裂面に変化が生じ靭帯断裂が陳旧例となり足関節外側不安定症を併発した場合には、靭帯形成術などを施行しなければならなくなり、スポーツ復帰までには相当の日数を要することとなる。
 故に、現場の指導者は捻挫を軽視せず、初期の処置を正しく行えば選手のスポーツ復帰期間も短くてすむし問題となることも少なくないはずである。

〔文責:福島整形外科病院院長・日体協公認スポーツドクター 福島 稔〕
 
スポーツ選手のひざの障害について教えて下さい。
 
スポーツ選手のひざの障害について教えて下さい。  スポーツと膝の関係は多岐にわたり、多くの問題を含むもので、なかなか一口には答えられないというのが我々の本音です。
 そこで、今回は膝のつくり、働きをお話してみましょう。
 膝は、図の様に、大腿骨と膝蓋骨、そして脛骨という3つの骨が、関節を作っている形をしています。これらのうち、大腿骨と脛骨のつくる関節を、狭義の膝関節といいます。これらの骨の間には、中央から、前十字靭帯、後十字靭帯、内側及び外側の側副靭帯、内側及び外側の膝半月などがあり、膝の安定性を含めてスムーズな動きに関係しています。その周辺は、大腿骨と膝蓋骨間のいわゆる膝蓋大腿関節も含めて、一つの空間を作る膝関節包が取り囲んでいます。そしてその外部には、膝伸筋群とよばれる膝を屈曲させる筋群が取り囲んでいます。とくに膝伸筋群は、スポーツによるオーバーユース症候群(オーバートレーニング症候群、使いすぎ症候群)といわれるスポーツ障害を起こしやすい部位です。この筋群には大腿四頭筋という四つのすじがひとつになったような筋と、股関節の安定にもはたらく大腿筋膜張筋などがあり、特に前者は膝蓋骨について、脛骨との間に膝蓋腱で連絡しているという形態をしています。
 つぎにそれぞれのはたらきですが、前十字靭帯、後十字靭帯は、膝の前後の動き、(大腿骨に対する脛骨の動き)を安定化し、屈伸の機能軸をつくるためにあります。又、内、外の側副靭帯は、三日月状の軟骨板で、膝が屈伸する際、大腿骨を脛骨の間にできる余分な隙間にはいりこんで、そこを埋め、動きを安定化します。
 膝蓋骨は、先に話したように、大腿四頭筋の機能軸上にあり、この筋の力の伝達をスムーズにし、大腿骨に対する脛骨の前方回転力を減少しないように滑車の働きをしています。
 その他、屈筋群は膝の回施運動も調節していますし、後十字靭帯のはたらきを補助するようにも働いています。簡単に説明しましたが、おわかりいただけましたでしょうか。

Q:難しいですね。しかし、何か精密機械のようでおどろきました。このしくみが破壊される状態を傷害と考えていいのでしょうか?

A:そのとおりです。とくにそれが、スポーツの途中に起こることが多いのが問題なのです。指導者がスポーツマンの体のことを十分理解して、トレーニングメニューを組み立てること、又、スポーツマンにそのことを認識させることの重要性がそこにあると思います。それでは、次回は膝の外傷(ケガ)と慢性の経過をたどる傷害と、スポーツの関わり合いについてお話しましょう。  
膝のスポーツ外傷で、注意することは何ですか?
 
前回お話した膝の構造についてを、思い出してください。その上で、現場で注意することの第一は、怪我したときの選手の症状です。
 つまり、どんな状態で受傷したかを、よく思い出しながら、膝はすぐ腫れだしたのか?痛みはどんな風だったか?いわゆる「抜けた」感じがあったか?などです。そして、スポーツを指導する者として、選手の膝に、水がたまったのか?血がたまったのか?ということが重要なポイントになります。受傷後、膝が腫れてきて、医師の診察時、膝に血がたまっていることがわかったときは、最も注意を要するときだと考えてください。そのためにも、直後でも、翌日でも、膝が腫れているときは、専門医に受診させてください。 
膝に血がたまっている場合、どんなケガが考えられるのですか?
 
スポーツ外傷で、膝に血がたまるとき、一番多いのが、前十字靭帯の断裂です。統計的には、女子高校生のバスケットボールで発生することが多いようです。次によくあるのが、膝蓋骨の外側への脱臼です。このいずれも、怪我をした瞬間に「グキッ」というような、異常音(?)を体感しているようです。また、どちらも、受傷直後にすぐ膝が腫れだすのは約半数で、のこりは、そのときは、膝に力が入らないが何とか帰宅でき、夜、膝が腫れ、痛みが出てくるようです。 
この場合の治療法は?(膝に血がたまっている場合、どんなケガが考えられるのですか?)
 
 前十字靭帯断裂から話しましょう。
 治療法としてはいくつか考えられますが、また元のスポーツに復帰することを期待するのであれば、現時点では手術を受けた方が安定した結果が得られるようです。手術法にはいくつかあり、それぞれの医師によって、得意、不得意があり、考え方も違っていますから、よく話を聞いて、選手自身に一番よいとおもわれる方法をとることはいうまでもないことです。ここでは、大まかに話しておくことにします。
 治療に先立って、関節鏡の検査にて、どんなケガかを調べます。ついで、前十字靭帯を、縫い合わせられれば縫い合わせ、これが駄目な場合、自家腱(自分の体のほかの部位の腱など)で形成する場合と、人口腱を使って形成する場合があります。色々な方法といったのは、このことで、現時点ではどの方法も一長一短で、そのため色々意見が分かれているようです。いずれにしても専門医は、選手が復帰できるまで治療してくれると思います。
 この手術に続いて、大切なのが術後のトレーニングです。手術医の指示に従い、膝の稼動域訓練と膝周囲の筋群について、特に大腿四頭筋について筋力トレーニングを十分行わなければいけません。そしておおむね術後2ヶ月程度で、チームメートと一緒にトレーニングできるようになり本人の努力にもよりますが、早ければ3ヵ月後でサポーターをつけて試合にも出られるようにもなります。ただ、フルトレーニング、フル出場には、半年くらいかけたほうが良いようです。
 膝蓋骨脱臼については、多くの場合、生まれつき、脱臼しやすい”体つき”があるようで、これもほとんど手術した方がよい結果が出ています。これも専門医にかかり、検査した後、必要な手術と術後のトレーニングで元のスポーツに復帰できます。一番大切なのは、怪我をしたらすぐきちんと治療することです。

〔文責:鹿沼整形外科 (財)日体協公認スポーツドクター 大西 正康〕 
スポーツによる肘関節障害について教えて下さい。
 
スポーツによる肘関節障害について教えて下さい。  スポーツを継続的におこなっていくことにより、身体には、いろいろな変化が起こってくるが、好ましい変化とみられるものを「スポーツ効果」と呼び、好ましくないとみられるものを「スポーツ障害」と呼びます。スポーツ効果とスポーツ障害は紙一重の存在であり、誰が好ましいとか、好ましくないとか判断したかにより、スポーツ効果もスポーツ障害になることもある。しかし、一般には、急性の外傷に対して、スポーツを継続的におこなっている内に、特別な怪我がないにもかかわらず、次第に疼痛や関節の運動制限が生じ、スポーツばかりでなく、日常生活にも支障をきたす時、これらをスポーツ障害と呼ぶ。
 さて、スポーツによる肘関節障害について知るには、肘関節の構造について知らなければならない。肘関節は上腕骨下端(滑車、小頭)、尺骨上端(滑車切痕)、橈骨上端(橈骨頭)が共通の関節包に包まれて形成されている(図1)。肘関節の生理的運動は、屈伸と前腕の回内外運動のみである。肘関節の主運動である屈伸運動は単純な蝶番運動と考えられやすいが、実際には屈伸運動につれ、その回転軸が移動し、しかも、尺骨が上腕に対してわずかに回転するという複雑な運動をしている。
 関節の安定性と運動方向を規制するものとして、内外の側副靭帯があるが、肘外側側副靭帯の発達は良くない。一方、内側側副靭帯はよく発達している(図2)。靭帯が、関節の非生理的な運動のために切れた状態が「捻挫」である。
 肘関節の内側には尺骨神経が通っている。
 関節を動かすものは筋肉であるが、筋肉は「腱起始部−腱−筋−腱−腱停止部」の構造をしている。筋肉の異常な、或いは反復する収縮による、この「筋腱単位」の弱いところに損傷が起こるが、これらはストレインと呼ばれる。適切な日本語はない。慢性の「捻挫」や慢性の「ストレイン」がスポーツ障害の大部分を占めている。
 上腕骨の内外上果部は、それぞれ、前腕屈筋群、伸筋群の共通起始腱の付着部であり、スポーツ障害の起こり易い部位である。特に、発育期では、腱の起始部には発育軟骨層があるが、ここは、発育期ではもっとも弱い部位である。(図3)。
 「野球肘」「テニス肘」「ゴルフ肘」という用語があるが、これらは、それぞれ野球、テニス、ゴルフで肘痛や肘の機能障害が生じたというだけで、肘のどこのどの程度の障害が及んでいるかを述べる医学的な診断名ではない。スポーツによる肘関節障害には多数の肘の外傷性疾患が含まれる。

〔文責:高槻整形外科医院 (財)日本体育協会公認スポーツドクター 高槻 先歩〕  
スポーツ選手の肩の外傷について教えてください。
 
スポーツ選手の肩の外傷について教えてください。  スポーツ活動中にしばしば発生する肩の外傷として、肩関節脱臼を取り上げてみたいと思います。
 肩関節は人体の中でもっとも稼動域が広い反面、最も脱臼しやすい関節で、外傷による脱臼の約半分を占めています。また脱臼の方向は、95%が前方脱臼の鳥口下脱臼といわれるタイプのものです。
 肩が脱臼すると、激しい痛みとともに運動が制限され、変形を認めます。
 とくに三角筋のふくらみがなくなり、角状に突出した肩峰が認められます。脱臼の整復は比較的容易で、慣れた人なら一般の人でも行えると思われていますが、中には神経・血管・腱が切れている場合もありますので特に初めての脱臼の場合は、必ず専門医を受信しX検査を受けることをお勧めします。
 整復後は、たとえ肩の痛みが取れ、動きが良くなってもすぐに動かすことはせず、最低3週間は外固定(三角巾や包帯固定)を行う必要があることを忘れないで下さい。固定除去後は、肩周囲の筋力トレーニングを十分に行い、再脱臼が生じやすい初回脱臼後6ヶ月以内は十分に注意する必要があります。  
よく肩の脱臼をすると”くせ”になると言われますがなぜですか。
 
よく肩の脱臼をすると”くせ”になると言われますがなぜですか。 これは、脱臼整復後の固定期間および年齢と密接な関係があるといわれています。肩関節は脱臼時関節包・靱帯の損傷、骨膜の剥離等が生じ、その修復が十分に行われないと再び脱臼し、それが繰り返されるようになります。したがって脱臼を整復しても、すぐにこれらの修復がなされないうちに肩をうごかすと再脱臼をしやすくなります。ある調査では、脱臼整復後の再発率が、20歳以下94%、20-40歳74%、40歳以上14%という風に若年層では大変高確率に再脱臼し、繰り返し脱臼を起こす”反復性脱臼”になってしまう一方、40歳を越えると再脱臼率が急激に減少します。これは肩の脱臼が10-20代に多く、脱臼が整復されるとあまり痛みや運動障害がないのですぐに激しいスポーツを行ったり、日常生活でも過度に肩を使ってしまうためと考えられます。したがって、脱臼整復後の固定が再脱臼防止のために大変重要であり、若年層ほどその固定期間が長く必要であり運動再開には十分注意を払うようにしてください。  
突き指について教えて下さい。
 
 正確には、「突き指」という病名はない。いわゆる受傷機転による呼称である。
したがって、ボールなどが指に当たったときに受傷する指関節部周辺の障害名の総称であり、この中には挫傷、捻挫、靭帯断裂、骨折、脱臼などが含まれる。種々の病態があり、治療も画一的なものではなく、初期の適切な治療が重要である。
 「突き指」を正しく理解するには、手指関節の解剖を知っておかねばならない。(図1)。手指の関節には、手根中手関節(CM関節)、中手指節関節(MP関節)、指節間関節(IP関節)などがある。母指には一つのIP関節しかないが、他の指には近位、遠位のIP関節があり、各々PIP関節、DIP関節と呼んでいる。IP関節は指の屈伸運動のみであるが、MP関節は屈伸運動と内外転運動が出来る。MP関節とIP関節の尺側・橈側には側副靭帯があり、側方動揺を防いでいる。指の背側には伸筋健、掌側には屈筋腱がついている。
 発生原因は、指がボールや地面などに強く打ち付けられたときに受傷するが、衝撃の強さや方向により病態が変化する、好発部位は両側全ての指関節部に起こりうるが、母指ではMP関節尺側、他の指でがDIP関節背側またはPIP関節掌側がおかされやすい。指では環指、中指、示指が最も多く、小指、母指は比較的少ない。殆ど運動中の不可抗力により発生するが、運動前の十分な指のウオーミングアップやゲームに対する集中力を高めることなどが予防になると思われる。症状は指関節部の疼痛、腫張、運動制限、変形などである。受傷後直ちに変形を矯正し氷などで局所を冷やし、専門医を訪れるようにしたほうが良い。

代表的なものは
1)槌指(マレット・フィンガー)
  DIP関節の屈曲変形の呼称であり、伸筋腱終末の断裂や、末節骨背側の剥離骨折などで起こる。(図2-a、b)DIP関節伸展位福子を用いるか手術を要することが多い。

2)側副靭帯損傷
  母指MP関節尺側、他指PIP関節橈側に多い。側方動揺性や腫脹がみられる。損傷側隣接指と一緒に副子固定するが、完全断裂では手術を要する。(図3)

3)PIP関節脱臼骨折
  「突き指」の中でもっとも治療困難なものである初期に適切な治療がなされないと高度の障害を残す。中節骨基部掌側の剥離骨折と中節骨がPIP関節背側に脱臼する。殆どの場合手術を要する。(図4)

以上、「突き指」について話したが、文中で再三述べたように画一的な単純なものでなく、たかが「突き指」と思っていてもどんな病体が隠されているかわからない場合が多い。X線検査は必須であり、初期に適切な治療がなされないと治療期間が長引くだけでなく、疼痛、変形、機能障害をのこす恐れがあるので、受傷後直ちに専門医を訪れたほうが良い。

〔文責:福島整形外科病院院長・日体協公認スポーツドクター 福島 稔〕 
膝タナ障害とはどんな障害でしょうか?
 
膝タナ障害とはどんな障害でしょうか? 膝関節は、胎生期(お母さんのお腹のなか)ではいくつかに区分けされており、タナは、その隔壁が生まれてからも残ってしまったものです。タナは滑膜ひだの一種で、関節腔内にいくつか存在しますが、主に症状をおこしやすい内側滑膜ヒダを“タナ”といっています。日本人の半数にみられ、決して珍しいものではありません。したがって、タナがあるからといって、そのままタナ障害と診断するのではなく、選手の訴える症状とタナとの関連性を十分に評価していくことが肝要です。

分類としては、関節鏡所見により4型に分類されています(榊原の分類、 1976、図1)。
A型:ひだの内壁が索状に盛り上がっているもの
B型:ひだは膜状で幅が狭く、しかも大腿骨内側顆を覆うまで到っていないもの
C型:ひだは厚く広くなり、しかも大腿骨内側顆前面を覆うもの
D型:ひだに穴があいており、遊離縁の一部が索状になったもの

症状をおこしやすいタナは、C型とD型が多く、次のような関節鏡の所見がみられます。
1) タナが大きく、膝蓋大腿関節に嵌入したり、内側大腿骨内顆部をこするもの
2) タナと接している膝蓋骨または内側大腿骨内顆部の表面不整、軟化症などの二次性変化をみるもの
3) タナ体部に断裂や穴があいていたり、出血のみられるもの
4) タナが厚く、弾力性を失い、硬いもの

 症状としては、このタナが運動時に膝蓋大腿関節に挟み込まれたときに違和感やひっかかり感を生じます。長期間放置すると、安静時痛や起立時にも重苦しさが残り、疼痛が持続するようになり、スポーツ活動にも支障をきたします。また膝屈伸時にクリック(“コクン、コクン”と音がする)を生じたり、膝蓋骨内側下部に圧痛、索状物または腫瘤を触れたりすることがあります。年齢的には15?25歳までの若年女性に多いようです。膝疾患の中で、タナ障害の占める割合は1?3%程度で、決して多くありません。若い女性の中には、タナ自体の変化はひどくなくても何らかの原因で膝蓋骨周辺の関節包が刺激を受けやすい状態にあり、正常に近いような生理的な牽引力でも疼痛をきたす場合があります。このような場合、関節鏡を使ってタナを切除しても、タナの牽引痛はとれますが、 anterior knee pain(膝前面周囲のいやな痛み)は残ってしまいます。したがって、安易にタナ障害と診断され、切除することには慎重でなければなりません。

 治療としては、保存的治療と手術的治療があります。保存的治療では、疼痛をきたすようなスポーツ動作の禁止、大腿四頭筋訓練とストレッチングなどが行われますが、それにも限界があり手術的治療が選択されることが多いようです。手術は関節鏡という内視鏡を使って、タナを切除摘出します。皮膚には 1cm程度の創が3カ所程度できるだけで済み、入院期間も数日間で退院できます。手術後は、翌日より特に制限なく、荷重歩行が可能です。術前のパフォーマンスにもよりますが、数週間でスポーツ現場への復帰が可能となります。

(文責:上本宗唯 自治医科大学整形外科、日体協公認スポーツ医)  
膝の傷害で半月板損傷・オスグッド病・ジャンパー膝について教えてください。
 
半月板損傷とは?
スポーツによる膝のケガではもっとも多く、膝を曲げた状態で捻ったときに痛みます。これは膝の中のクッションの役割をしている半月板が切れているために生ずるものです。膝を完全に伸ばしたり、曲げたりすることができなくなります。(この症状をロッキングといいます)症状が強ければ必ず整形外科を受診しましょう。MRIなどで断裂が明らかであれば関節鏡(内視鏡)での手術が必要となります。

オスグッド病とは?
小学校高学年から中学生の子供に多く発生します。膝の前面(脛骨粗面)が痛み、腫れます。正座をして床に当たると痛く、また膝に力が入りにくくなりスクワットなどが痛くて十分にできなくなります。これは、成長期の段階で、脛骨粗面の骨端線(成長線)が脆弱であるのに、大腿四頭筋に引っ張られ、剥離することによります。サッカー、剣道などハムストリングより大腿四頭筋を多く使う種目で特に多く見られます。
                                         
ジャンパー膝とは?
頻繁なジャンプの繰り返しや長距離ランニングなどにより生じます。膝蓋骨(お皿)の少し下の膝蓋靭帯とのつなぎ目に痛みが出ます。

これらの治療法と再発予防法は?

オスグッド病やジャンパー膝は使いすぎや過労(オーバーユース)によって生じますので、ある程度の練習量を減らすことが必要です。また大腿四頭筋のストレッチや練習後のアイシングも有効です。オスグッド病に関しては、脛骨粗面にかかる力を抑える膝サポーターも有効です。テーピングなどもありますが、いずれも障害となっている原因がありますのでまずそれを取り除くことが肝要です。痛みを我慢しながら練習をしていると遺残性のものとなり、成長障害を来たしたり、手術が必要になることがあります。
ある程度症状が改善したら、再発予防のため運動前後の十分なストレッチと、膝の後ろの筋肉(ハムストリングス)を鍛え前後のバランスを良くしていくことが重要です。



(文責: 日光市民病院 (財)日体協公認スポーツドクター 飛田格子)  
グラウンドでの救急処置を教えてください。
 
 競技場で起こりうる外傷には幾多の種類があり、限られたスペースでの解説は困難である。今回は日常比較的頻度の高い外傷、すなわち打撲、挫傷、擦過傷等の初期治療の要領とその理由を中心にして述べる。
 スポーツ障害の治療で目標にすることは、最も少ない損失で、出来るだけ早く回復させることである。そのためにも事故現場での救急処置は重要な役割を果たす。最初に全体的な傷害の評価について述べる。受傷直後の反応は選手一人一人違っていることを理解しておく。非常に我慢強い人もいれば反対にとても大げさに痛みを表現する選手もいる。受傷者の態度に惑わされることなく、次の点に注意して観察する。
1)意識があるかどうか。
2)口や耳から出血や他の浸出液があるか。
3)苦しそうに呼吸していないか。
4)明らかな変形がないか。
5)手足を動かしてみることが出来るか。
以上の点に疑問があれば直ちに医師に受診させる。

止血及び清拭:スポーツ現場での外傷に伴う出血では多くの場合静脈性であるので局所の清拭のあと、清潔なガーゼまたはそれに相当するものでやや強く圧迫するのみで十分である。
 ただ、脈を打つように出血する場合は動脈性の出血で、傷より少し心臓側を強く圧迫し止血を行う。砂地のグランドでの擦過傷の場合創面に砂の粒子が入り込んでいることが多く、時間がたつと傷から出る組織で覆われるため、除去し難くなるため受傷直後に流水下でスポンジまたはガーゼ等で軽く擦り取るようにするとよい。

障害部位の位置:どのような障害であれまず最初の処置は冷却(Ice)と圧迫(Compression)が重要である。冷却することで血管を収縮させ、血腫や腫脹が生じるのを抑える。さらに圧迫によりその効果を増強させる。加えて患部を心臓より高い位置に挙上(Elevation)することでより効果が得られる。これら冷却・圧迫・挙上の頭文字をとってICEと覚えておくのが良い。

生体の反応:生体の外界からの刺激に対しての反応が炎症と呼ばれる。外界からの刺激には科学物質や細菌もあれば打撲等の物理的刺激も含まれる。すなわちスポーツ障害による生体の反応は局所の炎症であり、炎症の程度・範囲を小さく抑えることが早い治療に繋がってくる。できるだけ理解しやすいように炎症の経過を説明する。炎症は刺激を受けた組織細胞の反応、それに続く微少循環における反応、特にたんぱく質の透過、白血球の遊出・侵潤・増殖、さらに肉芽形成を経て治癒にいたる一連の反応で、一つの流れである。このうち初期に見られるものは組織破壊細胞内の化学物質の流出と血管からの蛋白透過とそれに続く白血球の遊走であり、これらが受傷後にみられる局所の腫脹の根源である。
 血管透過の亢進は2相性に現れ受傷直後の即時反応が5〜10分以内に、続いておこる反応は長時間にわたる。さらに引き続き受傷組織から遊出する起炎物質の働きで次の白血球遊走が促進される。これは一般的に2〜3日続くといわれており、この間は局所の血流を可能な限りへらしておく必要があり、先に述べたICEが基本的な治療になる。

治療:よくパップ剤を添付し、冷やしたといわれる人が多いが、ここでいう冷却は局所の温度を持続的に低く保つことである。具体的にいうと厚みのある綿製の包帯で局部を圧迫包帯してから、氷による冷却、即ち氷水の中に浸すか、または袋に入れた氷で冷やすのがよい。、直接氷の中に浸す場合1回15分程度、氷袋で冷やす場合5〜6個のice cubeが溶けてしまうまで、季節で多少の違いはあるが約1時間程度を、4〜5時間間隔で繰り返す。もう一つの重要なことは受傷後最低2週間は暖めないことである。暖めると局所の血流は増加し、炎症が広い範囲に波及し機能回復により多くの日時が必要となる。入浴、マッサージなどは局所の加温になるのでこの期間はおこなわれない。

〔文責:池田クリニック院長・日体協公認スポーツドクター 池田 舜一〕 
スポーツ選手に見られる腰痛について教えて下さい。
 
スポーツ選手に見られる腰痛について教えて下さい。 はじめに
 ヒトは進化の過程で起立歩行することを獲得した。この結果、日常生活のうえで腰部に非常に大きな負荷が掛かるようになりました。ナケムソン(Nachemson)らの研究では、坐位により腰椎下部には体重の2〜3倍(100〜180kg)の応圧力が働くと述べており、また坐位で10kgの重量物を持つと腰部には250kgの力が掛かると報じています。このように腰部は荷重下で運動を強制されているので、種々の障害が起こりやすい部分です。とくにスポーツ活動ではとっさの急激な運動で負荷が加わります。たとえば跳躍とか、柔道、相撲、レスリング、重量上げなどの競技では体重の5〜6倍もの外力が瞬間的に作用します。
 生体はこれに反応するために、腹筋・背筋の強化をしますが十分でないと背骨や椎間板に破綻をきたし容易に腰痛が出現することが推測されます。
 文明の進歩発展はヒトをして腹筋・背筋の強化を忘れさせ、また子供たちは遊びを通じての体力づくりの場を失いつつあります。勢い運動不足が目立つようになってきました。このようなことが誘因して、一般の若い人達に腰痛を訴えることが多くなっています。
 スポーツに起因する腰痛には数多くの原因疾患があります。
(1) 筋、じん帯などの軟部組織に由来する腰痛としては、打撲、捻挫、肉離れなどをはじめ筋・筋膜性腰痛などがあります。
(2) 椎間板に由来するものとしては、椎間板ヘルニア、椎間板内の髄核が椎体内にもぐりこむシュモール結節、髄核が椎体の上前縁に移動する椎体辺縁隅角離断などがあります。
(3) 腰椎自体に由来するものとしては、腰仙椎部の奇形・変形、とくにスポーツ障害として問題になっている脊椎分離症、すべり症、椎間関節症があり、中高年者になると変形性脊椎症などが多くみられます。
これらのうち、スポーツ選手を悩ます幾つかの疾患を挙げてみます。
筋・筋肉性腰痛:競技中・中腰での活躍・腰をねじるなどによって突然強い腰痛が起こって身動きできなくなることがあります。しかし下肢への痛みの放散は見られません。また、長い時間練習を続けて使いすぎ(over use)と慢性型の腰痛が起こることがあります。この際、脊柱の運動性は良好であり、傍背柱筋に圧痛点と筋硬塞が認められます。筋・筋膜炎では一般にX線学的所見は見られません。症状の特徴として急性に発症しても、3〜4日すると自発痛は軽快してくることが椎間板ヘルニアと全く異なるところです。
 この症状は脊髄から出る知覚神経が筋や筋膜によって圧迫を受けて痛みがでると考えられています。予防的には腰背筋群・腹筋のストレッチなどを行って硬くなった筋を延ばしてやり異常な筋の収縮を取り除くことが必要です。
脊椎分離症:スポーツ技術の向上を目的としての腰の屈伸を繰り返し強制すると、腰椎は前方にすべり出すような力が加わって腰椎関節突起部に破綻が生じて、脊椎分離を起こすことがあります。従来は、先天性の弱い関節突起のために分離が起こると考えられてきましたが、最近では過労性骨障害の形で骨折となるという見方が優勢となっています。背骨の形成が不完全な小学生の頃、関節突起に割れ目が発見された場合には、2〜3ケ月間スポーツを一時中断して、安静とコルセット装用を行うと関節突起物の骨癒合が期待できます。それゆえ、このような症例ではスポーツの中断も止むを得ません。
 一方すでに偽関節になった症例では、保存的に骨癒合は期待できません。そこで、このような症例では、腰痛の強い時は安静にするが、軽快時には、積極的に腰背筋・腹筋・腸腰筋などの筋力増強を行うべきです。しかし、スポーツ活動をあきらめる必要はありません。本症発生を予防するためには、小・中学生に過剰な負荷がかからないような指導が必要です。
腰椎椎間板ヘルニア:椎間板は、背骨にかかる外力を和らげるクッション作用をする軟骨組織です。その外側部はやや硬い繊維軟骨であり、内部は柔らかい軟骨からできています。スポーツ活動などで椎間板に変性が起こると外側の繊維にひび割れが起こり、内部の軟骨が後方に突き出し神経繊維を圧迫するのがヘルニアです。
 スポーツ選手では、普段から筋肉を鍛えているので背骨にかかる外圧を弱めるように作用します。しかしながら、急な腰の回転動作などにより軟骨が飛び出すことがあります。症状が起こると、1〜2週間は身動きできない程の痛みとなります。
 現在、ヘルニアの部位を診断する最も有力な方法は、磁気共鳴映像法(M.R.I)で椎間板の変形を容易に診断できます。保存的に骨盤牽引や温熱療法を2〜3ケ月行っても、腰椎の運動性が悪く、下肢の感覚異常が改善しないときには手術的に軟骨を摘出することがありますが、スポーツ選手では多くは保存的に治療されます。
 予防法としては、腹筋・背筋の筋力増強や腰部の柔軟性の獲得、ストレッチ体操などの準備運動の励行、練習過剰にならないことが挙げられます。

〔文責:梅原忠雄(獨協医科大学名誉教授、日体協公認スポーツドクター)〕 
腰の傷害で筋肉性腰痛症・脊椎分離症・腰椎椎間板ヘルニアについて教えてください。
 
スポーツを行っていると時々腰痛が出現することがあります。腰痛を起こす原因によってそのままスポーツを続行してよいか、休まなければいけないかの判断が決まります。
 筋肉性腰痛症の場合は練習の量、質が体力と合わない場合に出現するものです。指導者は選手を育てるためにトレーニングを行います。選手は筋肉性腰痛症の場合はある程度は腰痛があってもトレーニングについていかなければなりませんが、強い痛みが出現したり、長期間続く場合は指導者とスポーツドクターと良く相談して練習メニューを改善する必要があります。
 腰椎分離症とは先天的に椎弓という部分の骨が欠損している場合や腰部に繰り返し負荷が加わり疲労骨折を起こしたものがあります。急性期の疲労骨折を起こしたものは骨がゆ合する可能性もあるので一時運動を中止してコルセットなどの装具を着用し経過をみます。先天性のものや疲労骨折を繰り返しすでに骨がゆ合しないような慢性期の状態になったものでは痛みに応じて運動量をコントロールしながら経過をみるのも良いでしょう。トップアスリートの中にも腰椎分離症がありながらプレーを続けている選手も少なくありません。
 腰椎椎間板ヘルニアになると腰痛だけでなく殿部からもも裏、ふくらはぎにかけてしびれ感や痛みがみられます。重症になると運動する時だけでなく日常生活に支障をきたすこともあり、場合によっては入院や手術が必要となることもあるので運動を中止してしっかり治さなければなりません。
 腰痛を起こす疾患は数多くあり、スポーツ選手において腰痛をひとまとめにして画一的な治療を行うことは得策ではありません。腰痛の原因をはっきりさせるためX線検査やCT、MRI検査を行い確実な診断を得ることが必要です。そしてこの診断に応じて運動を行いながら治療できるものか休まなければならないものか判断することが大切です。

     (文責: 西大宮病院 (財)日体協公認スポーツドクター 関 純)   
下腿の傷害で疲労骨折・過労性骨膜炎について教えてください。
 
下腿の傷害で疲労骨折・過労性骨膜炎について教えてください。 ランニング、跳躍を行う運動選手に下腿部の痛みが生ずることがあります。初期においては運動時のみに痛みがみられますが、時に歩行するだけでも痛む場合もあります。
 その原因疾患の一つにシンスプリントと呼ばれる過労性骨膜炎があります。下腿内側の下中1/3付近に腫脹、圧痛が認められますが、X線検査では明らかな異常所見はありません。MRI検査で骨表面や脛骨に付着している筋組織に異常信号が認められます。 治療はまず運動量を減らし、内服、湿布などの消炎鎮痛剤の使用、電気治療などの物理療法も行います。歩行するだけでも痛みがある場合は一時運動を中止することも必要です。運動を再開する際、再発予防として足底板の使用や下腿のアライメントをテーピングで矯正することも有効な手段です。また足関節の背屈、底屈動作にかかわる筋群の強化、バランスの矯正などのフィジカルトレーニングも必要です。
 また、骨組織に繰り返し外力が加わり疲労骨折が起こることもあります。ランニングや跳躍などの運動の種類により疲労骨折が起きる部位が異なります。(図1)
 発症初期ではX線検査で異常がみられないことがありますが、3〜4週経過すると少しずつ骨に変化がみられます。初期診断を確実に行うためには骨シンチグラフィーやMRI検査を行うことが必要です。
 疲労骨折が発見された場合はただちに運動を中止しなければいけません。特に脛骨中央にみられる跳躍型の疲労骨折の場合は悪化すると手術が必要となる場合もあります。
 運動選手において下腿部に痛みが出現した場合にこのような疾患もあるのでスポーツ専門医での診療、検査を受け確定診断をしてから治療に取り組むことが大切です。

(文責: 西大宮病院 (財)日体協公認スポーツドクター 関 純)  
「子供の体格は年々向上しているが、その反面体力は低下している」と言われて久しいのですが、それは本当なのでしょうか?
 
残念ながらそのとおりです。栃木県は1962年(昭和37年)にスポーツテストが制定されて以来、かなりの規模で調査を進めてきました。さらに、1971年(昭和46年)に大型計算機が導入されてからは、多変量分析も行われるようになりました。そこで、今回は1971年から1990年までの20年間にわたる変化を追ってその実態を紹介することにします。それでは、まず体格について眺めることにします。図1は中学校(12-14歳)・高校(15-17歳)を対象に、身長・体重について横軸に年号、縦軸に県平均値を取り、あわせてその変化の傾向を示す直線を図に示したものです。これを見ますと、紙面の関係で割愛しましたが、小学校についてもはっきり見受けられました。たとえば、男子12歳(中学校1年)の場合を見ますと、身長で5cm、体重で6kgも増加しています。ところが、高校女子の16・17歳では特異な様子を示し、体重については殆ど増加がみうけられませんでした。それは、どうやら痩身(やせ)の傾向が進んでいることを示唆しているようです。 
体格は確実に向上してきたことはよく分かったのですが、今指摘された痩身の問題も含めて肥満の状況はどのようになっているのでしょうか。
 
体格は確実に向上してきたことはよく分かったのですが、今指摘された痩身の問題も含めて肥満の状況はどのようになっているのでしょうか。 痩身・肥満の判定にはいくつかの指数が用いられていますが、その一つにローレル指数といわれるものがあります。それは、身長の3乗で体重を割り、それに10の7乗をかけたものです。そして、戦中・戦後の食糧難の時代には身体充実指数と呼ばれ、その値が大きいほど栄養状態がよく望ましいとされてきました。ところが、現代では、打って変わって肥満の判定に用いいられるようになりました。図2は、1971年と1990年のローレル指数を比較して図示したものです。男子では、全ての年齢においてローレル指数が大きく高まってきており肥満が進んだことがわかります。一方、女子では12歳までは、男子と同じように肥満が進んだが、その後の13歳から15歳までは差が見られなくなっています。そして16歳と17歳においては、むしろ逆転しており痩身が進んだことがわかります。こうした女子高生の痩身進行は、近年の青少年における運動不足という事実を勘案すると、脂肪量もさることながら運動に直接関与する骨格筋量の減少を示しています。それは、後でも述べますが。特に女子高校生の体力低下が著しいということの一つの要因にもなっています。  
体力を理解するにはどのような観点から眺めたらよいのでしょうか。
 
体力の構成要素として、筋力、全身スピード、全身持久力、柔軟性、調整力の5つの要素が挙げられます。そのうち、筋力はさらに最大筋力・筋の収縮速度(パワー)・筋持久力の3つに細分されます。したがって、こうした諸要素とスポーツテストの測定種目を関連づけてみるとわかりやすいと思います。最大筋力に属する種目は背筋力・握力であり、筋の収縮速度にはハンドボール投げ、ソフトボール投げ、垂直跳びが、そして筋持久力には懸垂・斜懸垂・連続逆上がりが属します。また、全身スピードは50メートル走・反復横跳びが含まれ、さらに全身持久力には持久走・踏み台昇降運動が含まれます。また、全身スピードには50メートル走・反復横跳びが含まれ、さらに全身持久力には持久走・踏み台昇降運動が含まれます。柔軟性を意味するものとしては立位体前屈・伏臥上体そらしがあげられ、最後に調整力を知る種目としてジグザグドリブル・走り幅跳びがあげられます。 
成長期のスポーツ外傷および障害の特徴と予防について教えてください。
 
成長期のスポーツ外傷および障害の特徴と予防について教えてください。 まず、子どもの骨・関節の成長・発達についてお話しましょう。昔から、「こどもは小さなおとなではない」といわれているように、年齢毎に適切な成長・発達を経ていきながら、成人のからだへと成長していきます。運動能力をみると小学生では反射神経が、中学生では持久性が、高校生では筋力・パワーが主に発達してきます(図1)。
次に、成長期におけるそれぞれの運動器官の特徴を挙げてみましょう。

骨:子どもの骨は、軟骨成分が多い“未完成の”骨であり、力学的なストレスに弱いものです。したがって、骨折をおこすような大きな外力を受けてなくても、小さな衝撃が反復して弱い部分に加わり続けると、正常な成長過程が障害されて痛みを生じたり、変形を残したりすることがあります(例えば、投げすぎによる野球肘、ジャンプによるオスグッド病など)。一方、自然治癒力が大きく、成人と比べて矯正力もありますので、手術的な治療の対象となるものは少ないです。
靭帯:関節を安定させている靭帯は骨よりも丈夫であるため、靭帯そのものが障害を受ける前に骨端線の損傷や骨折をきたしてしまうことが多いのです。
筋肉・腱:大人より柔軟性はありますが、骨と比較して成長が緩やかであるために、相対的には筋肉・腱は短縮し、緊張を受けやすい状態にあります。また骨・関節の発達に相応しい筋力が十分でないため、筋肉あるいは腱自体の損傷は少なく、これらが骨へ付着している部位での損傷が多くなります。

 では子どもの運動器におこる障害の背景にはどんな原因があるのでしょう。それが明らかになれば予防法もみえてくるものと思います。

原因 その1) 子どもの心とからだに関する知識の不足
 先に述べたような成長期の運動器の特徴を理解していなければなりません。急に身長が伸びてくる時期(成長スパート)や中学あるいは高校入学時などのスポーツ環境が変わる時期には障害を起こしやすいので特に注意が必要です。またそれぞれの発達する年代に合わせた適切な練習を行うことも大切ですね。例えば、小学生に筋力トレーニングをさせたりするのは骨・関節へ過剰な負荷をきたし正常な発達を妨げることになります(図1)。

原因 その2) 非科学的なトレーニングの実施
 思いつきの練習や大人と同じようなトレーニングは子どもたちの身体を壊すことになります。今でこそ行われなくなりましたが、うさぎ跳び練習、膝を伸ばした状態での繰り返す腹筋運動などの非科学的なトレーニングは膝や股関節の痛みの原因となります。だらだらとした型にはまった長時間練習も見直さなければなりません。休養をとることも大切なトレーニングのひとつです。週に2〜3日は休みをとって、体力の回復をはかりましょう。このように個々の子どもの成長・発達に合わせた質・量のトレーニングを処方し、スポーツの楽しさを共有しながら、長い眼で育てていく姿勢が必要です。

原因 その3) 勝利への強いこだわり
 指導者の「勝利が唯一絶対的なものである」「どんなことをしても勝つ」といった勝利への固執は、多くの問題をはらんでいます。こども達の勝利を指導者自身の勝利にすり替え、その勝利のためにこども達を使うようになります。こども達が指導者の目標達成(勝利、地位の向上)のための道具、手段になりかねません。こども達は指導者の「道具」でもないし、勝利という目標達成のための「手段」でもありません。これではスポーツ本来のすばらしさがなくなってしまいます。指導者は自らの指導によってこども達がパフォーマンスを向上させていくさまに喜びを感じることが本来の姿ではないでしょうか。そのためには指導者は「何のために指導するのか」という哲学をもっていなければなりません。

原因 その4) 保護者あるいはOBによる背後からの圧力
 チームが強くなって大会で優勝したりすると、周囲の支援と財政的な援助が得られ、有望な選手をリクルートできるようになります。それがさらにチームを強化し、勝利につながります。しかし、強くなればなるほど周囲の圧力が大きくなり、本来の指導方針が子ども達に伝わらなくなってしまうことがあります。これでは主役である子ども達が置き去りになり、障害の発見が遅れたり、パフォーマンスの低下を見逃してしまうことになります。あくまでも「主役は子ども達自身である」ということを忘れてはなりません。

 子ども達にとって、スポーツは心身の健全な成長・発達、人間形成にとって欠くことができないものです。しかし、この正常な発達を理解していないと、後遺症を残してしまうような重大な運動器の障害を起こしたり、ひいては心の歪みまできたしてしまうこともあります。指導者あるいは保護者の方々には、是非とも子ども達の夢をつぶさないためにもこのことを十分に留意して指導に当たっていただきたいと思います。
図1:年齢別にみた運動能力の発達(スポーツと腰痛:奥脇 透、コーチング・クリニック11月号、2003より引用)
(文責:上本宗唯 自治医科大学整形外科、日体協公認スポーツドクター) 
女性へのスポーツ指導で、注意しなければいけないことがあったら教えてください。
 
女性へのスポーツ指導で、注意しなければいけないことがあったら教えてください。 女性と靴下は強くなった、と言われて久しくなり、女性の社会的な進出も目立ち、女性は強くなったように考えられています。本当に強くなったのでしょうか?体力と若さを保つにはいったいどのようなことに注意すればよいか考えて見ましょう。

1.女性の体力は男性とどのように違うか?
 身長についてみますと小学生時代は男女差は見られませんが、12〜13歳で男児の方が大きくなります。握力でも小学生時代は男女間に差が認められませんが、男子では中学校から高等学校にかけて急激な筋力の増加が見られるのに対し、女子ではほぼ横ばいで、男子の約2/3程度となってしまいます。足の力である垂直とびでも、握力と同じですが下降傾向は握力より遙かに急激で、女性では60歳になると小学4〜5年生程度まで低下してしまいます。手は日常の生活で結構使用しているのですが、足は疲れるとゆっくりあるくとか、やめてしまうとかで、強い負荷をかけなくなってしまい、足から衰えることになります。循環機能の指標でもある最高心拍数でも性差はありませんが、心臓も筋肉でできているので、年齢とともに衰えていきます。また最大酸素摂取量、これはいわゆるスタミナですが各年齢層を通して男女差が認められます。このようにしてみますと、男女間の差は筋力の差であることがわかります。昔は力のある男子が外に出て働き、力の弱い女性が家庭を守ってきました。ところで、現代社会では男女間の差が小さくなってきていますが、これは一般社会での機械化の影響が大きくなったこともあり、ある種の仕事を除き(力仕事)男女差が現れにくくなっているわけです。  
一流女子選手の体力は一般の男子並!
 
一流女子選手の体力は一般の男子並!  筋肉中のエネルギーを燃焼させるためには酸素が必要です。最大酸素摂取量とは空気中の酸素を肺で吸い込んで、心臓からおくりだす血液に乗せて筋肉に運び、どれだけたくさん筋肉で消費できるか、言い代えればどれだけ筋肉中のエネルギーを燃焼できるかということです。陸上長距離選手のように長い時間運動を続ける種目では高い値であるのに対し、フィギュアスケートの選手では一流選手でも一般人よりわずかに多い程度です。トレーニングで向上させることは出来ますが、個々の持つ素因が大きなウェイトをもっています。この最大酸素摂取量は競技種目を選ぶときは自分の身体の特徴に合った種目を選ぶことが重要になってきます。
 体力と脂肪との間には密接な関係があり、競技種目によって選手の体型には大きな差が認められますように、一流選手の体脂肪率も競技種目によって大きく変わってきています。敏捷性が勝敗の大きな要因となっている体操やフィギュアスケートの選手は一年を通じ減量しておりますが、それでも女性では思春期になり月経が始まるとホルモンの影響で脂肪が蓄えられはじめ、一流選手としてはなかなかやっていけなくなります。バレーボール選手と一般人の体力を比較してみますと、皮下脂肪がやや多い点を除き、筋力・筋パワー。呼吸循環系・神経系・体格いずれを見ても一流女子選手の体力は一般男子とほぼ同じです。しかし、同じようにトレーニングをしている男子選手との間には歴然とした差が生じてしまいます。 
女性の筋力はなぜ弱いか
 
 超音波測定装置で皮下脂肪量を測定してみますと、女性では脂肪が多く筋量が少ないことがはっきりしてきます。これは皮下脂肪の形でエネルギーを蓄えているという女性の生理学的特徴に起因すると考えられます。身体の構成上から見ると脂肪を蓄えた分だけ筋量が減ってしまったのです。筋肉は細い三種類の筋繊維が束になってできています。速筋と呼ばれる繊維は力は強いのですが疲れやすいものです。これに対し遅筋と呼ばれる、力は弱いがなかなか疲れないものと、その中間のものです。この筋肉繊維の分布は遺伝的な要因が大きく、男女差は認められません。筋肉の発達に違いが出来るのは男性ホルモンの影響で、たんぱくを筋肉にする作用、たんぱく同化作用が強いためです。トレーニングしだいでは女性でもある程度強くなれます。しかしこのトレーニングに関しては十分な科学的知識の下で系統的に実行していく必要があります。現時点で、中・高校生の間で問題になっているのが使いすぎによる障害で、強い身体を作るはずが逆に身体を壊してしまう結果になっていることが多々あります。

 この原稿は、平成6年9月8日に宇都宮市が開催しました「さわやか健康講座」で日本女子体育大学教授 山川 純先生が「女性とスポーツ」と題して講演された内容をまとめたものです。

〔文責:池田クリニック (財)日体協公認スポーツドクター 池田 舜一〕 
女性へのスポーツ指導/体力はトレーニングにより強くなり、三食昼寝つきの生活では弱くなる!
 
女性へのスポーツ指導/体力はトレーニングにより強くなり、三食昼寝つきの生活では弱くなる!  筋力を強くするには週に2回のトレーニングで十分です。トレーニングの効果は局所的に見ますと、筋肉の繊維が太くなることですが、効果的に筋力を増大するのは、良いトレーニングと、筋肉を作るのに必要な良質のたんぱく質と、良い休養が必要です。”明日の試合で敵に勝とう!”とカツを食べたりしますが、これはまったくといっていいほど効果がありません。トレーニング期間中に充分なたんぱく質を与え、試合直前には、エネルギー源の炭水化物を与えるのが効果的です。予断になりますが、忠臣蔵の討ち入りの前にそばを食べて出陣しましたが、消化が良く、優れたカロリー源となっており、なかなか合理的です。トレーニングに際して重要なことは、ウオーミングアップは仲間と一緒でも、目的のトレーニングは自分の筋力にあった強さで行うといった、自立した練習が必要です。宇宙旅行のために行った面白い実験があります。宇宙では重力が極端に小さいため、筋力を働かせる必要がありません。そこで、21日間連続してベット上の安静を行いました。その間に心容積、最大酸素摂取量は大きく減少しました。このことは身体を動かさないため、各種動作に必要な力が消えてしまうことと、言い換えれば身体が無動作環境に適応してしまったことを示しています。しかしその後6ヶ月間のトレーニングで実験開始以前以上の体力が得られました。別のラットを使った宇宙生活前後の筋繊維の太さの変化を調べた実験では、生物の持つおもしろさなのですが、使わなければ衰えてしまうことが証明されます。練習も継続しなければ、練習で鍛えた身体はすぐに戻ってしまいます。
 健康で若々しく元気で生きていくためには、筋肉を使い続けなければならないことになります。楽をすればすぐに筋肉は衰えてしまいます。最初に言いましたとおり足から衰えるわけですので、歩くことを中心にして、足の筋肉を強化しておく必要があります。昨今各種スポーツクラブや地域・学校でのママさんバレーなどのスポーツ活動が盛んですが、歩くことは誰でも、いつでも、どこででもできる手軽なスポーツです。歩行というごく軽い運動でも、継続することによって、血液内の性状、身体の基礎となっている筋肉や骨も若々しく保てるものなのです。  
女性へのスポーツ指導/女子スポーツ選手のトレーニング上の問題点
 
女性へのスポーツ指導/女子スポーツ選手のトレーニング上の問題点  日本には明治時代以前から初潮に関する統計があります。それを見ますと1930年から60年の30年間に初潮年齢の若年化の加速現象が認められ、約3年も速くなっています。60年以降は平均12.5歳で再び横ばい状態になっています。これに対しスポーツ選手の初潮は13.5歳と一般の女子に比べ約1年ほど遅くなっています。これが器械体操の選手で見ますと更に1年遅く14.5歳になっています。この傾向は日本のみならず、米国でも認められています。選手の競技力向上競技成績の上昇に伴い初潮が遅くなっています。これは激しい練習がホルモンに影響を及ぼしていることによるものでしょう。
 次に女子スポーツ選手の間に問題になっている点に貧血があります。陸上長距離選手の9人中5人に貧血が見られました。いろいろの理由がありますが、その中の一つにウエイトコントロールに際し必要な栄養素を十分に摂取していないといったことも挙げられます。日本女子体育大学の新体操の選手に3食を鉄、たんぱく質など必要量を完全に満たしたメニューで与えたところ、体重維持にも不十分な1,200カロリーであったため体重は1.2キロ減少しましたが、血液科学的には変化は認められませんでした。バランスのとれた食事をとっていれば悪影響は起こらないことを示しています。3番目の問題点として挙げられる点に月経異常に関することがあげられます。ここでは3ヶ月以上の無月経を月経異常としていますが、無月経は運動によりエストロゲンの分泌が抑えられ、閉経と同じような生理状態となるのです。特に陸上長距離の選手に多いのですが、良い記録を出すために減量し脂肪を減らしますと、貧血になることもさることながら、脂肪から作られるエストロゲンの分泌が減少し、無月経を起こすこととなります。そうしますと閉経後の女性と同様に骨粗鬆症の女性と同じ状態になります。陸上長距離の女子1/4の選手に月経異常が認められています。また、月経異常の見られる選手の約半数に下肢障害があり、10%以上に疲労骨折が見られます。以上3つの問題点について述べましたが、女性特有の変化がしばしば見られます。また、激しい運動をしなければ一流選手になれない一方、激しい練習で身体に問題が起きています。以下にバランスをとって、身体に異常を来さないで一流選手になるかを考えなくてはなりません。
 さわやか健康教室ですので、最後に皆さんに参考になるような点について述べましょう。自分で楽しみを見出して身体を動かしてください。一番目は、プールの中を歩くことを推奨します。これは中高年向きです。浮力により膝・股関節への負担を軽くしますが、水の抵抗で消費エネルギーは大きいものです。しかし陸上の運動に比べ、負荷はやや軽めですので歩行や球技などの陸上の種目も行うようにし、体重という負荷に見合う呼吸循環系を形成しましょう。2番目は良い靴を使用してください。ヒールは2.5mm以下にしましょう。外反拇指といった骨の変形を起こさないためにも重要です。近くにお出かけのさいはサンダルはやめて、ウオーキングシューズやスニーカーのようなしっかりとした履物をつけ、バスなら一停留所手前でおりて歩くとか、一つ先のスーパーまで足を延ばすといったようなことで歩く習慣を身につけてください。スポーツの基本は歩くことです。足が強いことが重要です。

 この原稿は、平成6年9月8日に宇都宮市が開催しました「さわやか健康講座」で日本女子体育大学教授 山川 純先生が「女性とスポーツ」と題して講演された内容をまとめたものです。

〔文責:池田クリニック (財)日体協公認スポーツドクター 池田 舜一〕 
高齢の人たちに健康維持のための運動を指導することになりました。どのような点に注意したらよいのかを教えてください。
 
高齢の人たちに健康維持のための運動を指導することになりました。どのような点に注意したらよいのかを教えてください。 高齢者の場合は、最大酸素摂取量を高めるとか、筋力を高めることにとらわれず、運動における
精神面への効果を期待すべきでしょう。高齢者にとっては、精神的な気持ちの持ち方やこころのはりが、健康状態あるいは寿命に対し、想像以上に影響を及ぼすことがあるものです。マイペースで行う運動やスポーツは生活にはりをもたせ楽しみや喜びを増してくれるものです。
 成人病の原因は、もっぱら運動不足とエネルギーの過剰摂取で、厚生省は食事の見直しとならんで適度な運動を国民に勧めることにし、平成元年、成人病を予防し、健康を維持するための「健康作りのための運動所要量」を公表しました。
 これによると、健康と最も関係の深いのは、体力の中でも全身持久力で全身持久力が一定水準以上だと肥満、高血圧、心臓病の疾患率も低いといわれ、全身持久力を養う必要性を強調しています。
 この全身持久力をみる方法としては、体重1kgあたり1分間にどれだけの酸素を摂取できるかを示す最大酸素摂取量が適当だとされています。しかし、最大酸素摂取量は、どこでも測れるわけではないことから、よりわかりやすくするために心拍数に換算し直し、そうした心拍数を表1に示しました。より具体的例示として運動種目とその必要時間を表2に列挙しました。
            
上記の運動を実施するに当たって、
(1)1回に少なくとも10分以上継続して行う
(2)1日の合計運動時間は20分以上
(3)毎日つづける
などが留意事項として挙げられています。要は適度の運動を習慣づけることが重要です。
 指導内容を計画するにあたっての注意事項としては、全身運動であっても短時間に大きな力を発揮するようなアネロビック(無酸素性)運動は、高齢者にとってあまり好ましくありません。また、筋肉の長さを変えないで、筋縮尺を持続させるアイソメトリックス(等尺性運動)、中〜高程度の運動を繰り返すインターバル方式の断続的運動も肥満改善を目的とした際には効果は少ないものです。
 一般論として、低強度で時間をかけて、全身の筋肉を動かすエアロビック系(有酸素性)運動がとくに高齢者に望ましいといえますが、指導内容計画にあたっては、更に次の諸点に注意する必要があります。
1予測最高心拍数は誤差を視野に入れること
 <220−年齢>で最高心拍数を予測することが可能ですが、高齢者の場合は±20拍/分以上の誤差を示す場合があります。
2敏捷性を必要とする運動は避けること
 高齢者の指導に際して、身体のすばやい動きが要求されるような運動種目では、転倒などに伴うけがの発生率を高めることになり、適当ではありません。
3 目標水準を個人ごとに設定すること。
 性差、年齢、体力差という体力水準についての一般的な判断を破棄し、高齢者に見られる、より大きな個人差を考慮した指導を行わなければなりません。
4 その日の体調を正確に把握すること。
 本人の自覚や顔色からある程度把握することが出来ますが、運動前の簡単なメディカルチェックが必要です。
 以上のような注意事項を厳守し運動を続けることによって、
(1)加齢に伴う体力低下、機能低下を出来るだけ小さくし、いつまでも自由に活動でき、身軽に生活できるようになります。
(2)運動が精神面に及ぼす効果を重視し、身軽で明るい生活を送れるようになります。
(3)成人病の危険因子を予防、あるいは改善することが出来ます。
 
高齢者が、ジョギングやウオーキングを行う際の効果と注意点について教えてください。
 
 高齢化は人間の運動、視聴覚、平衡感覚など多くの機能が減退します。とくに足腰の筋力は歩くことを著しく制限して、楽しくあるべき老後の生活を大きく阻害します。また骨も加齢とともに弱くなり、わずかな外力で骨折を起こす危険が大きくなります。高齢者が骨折などで突然寝たきりになると数週間のうちに筋萎縮が現れ、歩くことが困難になるのみならず、老人ボケが進行します。一方、社会環境の変化、特にあらゆる部門で自動化や、機械化が進み、また車社会の発展により日常生活のうえで身体活動を行う場が少なくなり、運動不足が目立つようになりました。しかしながら、食べ物は過食の状態にあり、摂取エネルギーに対し消費エネルギーは減少して、栄養素は体内に脂肪として蓄積され、肥満傾向を示しています。このことが現在生活習慣病の増加に拍車をかけている原因です。肥満になると脂肪が末梢血管を圧迫して高血圧の原因を作ります。また脂肪代謝の異常はインスリン非依存型の糖尿病を発症させます。更には高コレステロール血症が原因となり血管の内皮細胞が破壊され動脈硬化が起こり、もしも多発性の脳梗塞が出現すると脳血管性痴呆が起こり、介護を難しくします。

 もし心冠状動脈硬化が進むと致命的な心筋梗塞となる危険が大きくなります。このように運動不足と肥満は成人病の温床ですので健康保持、体力増進を心がける必要があります。ではいかなる運動負荷が高齢者にとって安全であり、長続きする運動でしょうか。まず第一に挙げられるのがウオーキングです。何の束縛もなく、自分のペースで歩き続けた後は気分爽快となり、ストレス解消に役立ちます。またジョギングも運動不足解消に役立ちますが、壮年のころからジョギングを続けていた人では体力にあまり問題はないでしょうが、高齢になってからジョギングを始めようとすると、走り方が悪いと腰や膝を痛めるような危険がありますのであまり薦められない運動です。ジョギングというとただ走り続ける持久力の必要な運動ととらえられがちですが、決してそうではなく自分のペースで自由に走り、途中で疲れた場合は歩きをいれてよく疲れが取れたらまた走るという運動です。多くのジョガーは長い距離を、毎日走らないと満足できない、という一種の病気になり無理をして過労になりがちです。自分の立てた計画通りの走りを守るべきと心得ておくべきです。

 ウオーキングに当たり如何なる運動負荷が適当なのかを考えてみますと、一般にはその指標を心拍数から割り出す方法が多く用いられています。即ち最大心拍数は、「220−年齢」に相当します。この心拍数の70〜75%になる心拍数で30〜40分間運動することが、運動効果が示されるといわれています。たとえば、65歳の人はこの式から最大心拍数は220−65=155拍となります。この最大心拍数の75%の心拍数105拍/分となるような運動を30〜40分間続けると体力保持がはかられることになります。そして少なくとも週に3回は少し歩速を早めたウオーキングを行うべきです。最近言われるようになりましたが、加齢とともに身体活動が不活発になりますが、運動によって筋を通して骨に刺激を与えないと骨内のカルシウムが出てしまい骨が弱くなることがわかりました。この骨の弱さを骨粗鬆症と呼びます。現在日本中では一千万近い人が骨粗鬆症であるといわれます。特に女性では年齢が50〜55歳になると閉経となります。すると骨呼吸を抑制し、また骨新生を促す女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が低下するので骨のカルシウム量が急速に減少して、閉経後10〜15年すると閉経後骨粗鬆症となります。男性でも加齢とともにホルモンの分泌が減少して70〜80歳となると老人性骨粗鬆症となります。このように骨が弱くなると腰曲がりや腰痛が強くなり身体活動は益々少なくなります。そこで骨粗鬆症を出来るだけ予防する目的で定期的なウオーキングを行って健康で楽しい老後を送れるようにすべきです。

〔文責:獨協医科大学 元教授 吉田 卓司
同 名誉教授 梅原 忠雄〕 
高齢者がジョギングやウオーキングを行う際の注意点について教えてください。
 
 健康を保持するためには、体内に蓄えられているエネルギーを毎日運動によって消費する必要があります。その熱量は男性は250から300cal、女性は150〜200calといわれています。加齢とともにこの数値は若干少なくなりますが、運動によってエネルギーを消費することにより、体内の代謝は盛んになります。いま、ウオーキングによってこれだけの熱量を消費するのに必要な運動量を計算してみますと、少なくとも分速80m(120歩/分)位で60分間歩くことにより240から250calの熱量が消費されることになります。もちろんジョギングで分測120m位走るとすれば25〜30分ということになりますが、高齢者では運動量が多くなり疲労に陥り、また息切れなどが現れ相当に体力のある人以外はジョギングは出来れば避けたほうが良いと考えます。もしジョギングを試みようとする場合は内科的メディカルチェックを行ってみる必要があります。特に負荷心電図とか、ホルター心電図を用いて長時間にわたる心機能検査をしておくべきです。
 ウオーキングにおいても、アキレス腱や下肢ならびに腰部の筋群のストレッチングを行ってから運動を開始するとか、高血圧症の人では気象の変化が血圧を変動させることがあるので、特に冬季ではスポーツウエアーなどの用意が必要です。また、運動靴は足によくあったものを使用するのが肝心で、足に受けるショックを吸収できるインソールを用いた靴を選ぶことなどでも腰や膝の痛みの誘発を避けることが出来るでしょう。糖尿病や高血圧症を持っている人では、運動により血糖値が低下し、血圧は下降することは確かですが、効をあせってオーバーワークとならないよう注意も大切です。年毎に高齢化社会が押し寄せてくるとき、老後を健康で楽しい生活が送れるよう家に閉じこもらず、歩け歩け運動を進展させましょう。
       
〔文責:獨協医科大学 元教授 吉田 卓司
同 名誉教授 梅原 忠雄〕 
多くの高齢の人たちが楽しんでいますゲートボールでは、ゲーム中の心拍数と血圧はどのように変化していますか?またプレイするに当たっての注意点を教えてください。
 
多くの高齢の人たちが楽しんでいますゲートボールでは、ゲーム中の心拍数と血圧はどのように変化していますか?またプレイするに当たっての注意点を教えてください。 現在、老人のゲートボール愛好者は、全国に800万人を超していると言われています。老人の運動に関する意識調査によれば、ゲートボールが健康や体力の保持・増進に役立つと考えられています。また、ゲートボールは老人のスポーツとして適度な運動であり、ストレスや運動不足の解消に役立つスポーツと考えている人が多いといわれています。そこで、ゲートボールの試合中、老人の身体にどのような運動負荷がかかっているのかを知る目的で心拍数と血圧の変動について検討したことがありますので、その一部を紹介します。

1.ゲートボール、1ゲームの試合時間は30分であり、この間一人のプレーヤーのプレイ時間は単純平均で3分にしかなりません。1ゲームの平均移動距離は、154.4mであり、これは技術差により最小40.5mから最大473.8mの違いが生じています。また、ゲーム中の酸素摂取量は平均392ml/分で予想以上に運動量は少ないものです。

2.ゲーム中のプレイヤー5人の平均心拍数は、101.5±9.9拍/分(85±11.0〜113±5.6の範囲)で、年齢別予測最大心拍数の53〜67.3%に相当しています。被検者の69歳の女性は安静時脈拍75拍/分の二倍以上の心拍数157拍/分に達しています。ゲーム30分間の平均心拍数は137±7.9拍/分であり、予測最大心拍数の90.7%相当の強度でプレーしていたことになります。

3.ゲーム中の収縮期血圧の変動は、ここによって大きく変わっていますが、安静時の平均収縮期血圧140±125mmHgであり、ゲーム中のそれは174.7±25.7mmHgと24.8%上昇しています。玉川らは、収縮期血圧の変動は大きく、ゲーム中200mmHgを越す例を観察したと報告しています。図1の被験者S.Nの最高値は231mmに達し、ゲーム中の平均血圧は204.7mmHgと非常に高い値を示しています。

4.ゲートボール中の運動量は決して多くはありませんが、ボールを打つ前後では、心拍数ならびに血圧は一過性に急上昇する傾向が認められました。このことは運動負荷による変化というよりは、ゲームという精神的緊張に左右されるものと考えられます。それ故、高齢者のスポーツ活動では、ゲームに熱中しすぎると心血管系の負荷が大きくなることをプレイヤーに警告しておく必要があり、ゲートボールを軽く考えないで、メディカルチェックを定期的に受けることを勧めたいものです。

5.プレイヤーへの注意事項
 a)猛暑の日や厳寒期には要注意
 b)十分なウオーミングアップとクーリングダウンを励行する
 c)勝負にこだわらず、楽しくプレーする
 d)長時間のプレーは禁物、2時間が限度

〔文責:獨協医科大学 元教授 吉田 卓司
同 助教授 勝瀬 武〕 
ワールドカップやオリンピック、さらに、大きな国際大会などの際”ドーピング”ということを耳にしますが、どのようなことなのかもう少し詳しく教えてください。
 
 ★ドーピングというと、1988年のソウルオリンピックでカナダのベン・ジョンソン選手が100メートル競走優勝という名誉を薬物の不正使用を理由に剥奪されたことは有名です。ドーピングとは競技成績を高めることを目的として興奮剤や筋肉増強剤などの薬を利用することを言います。このような不正をしている選手に名誉を与えることのないように、競技会場などで選手を指名して、尿を取り、その内容を細かく分析し、この結果を見て処罰を行う一連の作業をドーピングコントロールと呼んでいます。これには競技時コントロールと競技外コントロールがあります。前者は競技会に際して無作為に抽出された選手を対象に競技直後に行われるのに対し、後者は競技に関係なく、抜き打ちに検査員が選手の所に行き検査することです。
 ドーピングの言葉の由来は、むかし、南アフリカのカフィール族が”ドップ”という強い酒を飲んで戦いに出る祭礼を行ったことに由来しています。スポーツの世界では古代オリンピックですでに蜂蜜液を競走馬に使用したとも言われています。(19世紀になり、ヨーロッパでは競馬で始まったドーピングがサッカーや自転車競技などに広がったといわれています。)ドーピングが禁止されるのは、この行為は選手の健康を害し、スポーツを害し、社会を害するからです。興奮剤を使うことにより疲労感が軽くなり、その結果回復不可能なレベルまで消耗し、死に至ることもあるといわれます。筋肉増強剤を長期間使用すると肝臓の障害や高血圧、精子の異常などが生じます。また、鎮痛剤では薬物の依存(習慣)性や禁断症状による社会悪の問題もあります。それ以上に自分のもってうまれた身体を鍛えて、その結果を争う公平でひたむきな姿勢があってこそ、スポーツが社会で大切にされるゆえんなのです。

 ★ドーピング検査の実際は以下のような手順で行われます。
?検査対象選手であることの通告
 競技直後または競技中に、文書で通達する。この際選手は通告書にサインをします。
?検査室への出頭
 通告後1時間以内に出頭する。検査室へ入室可能なのは競技者、競技者に付き添う代表者と主催者側の代表者、サンプル採取者、通訳。
?控え室で
 用意された飲み物を飲み採尿を待つ。この間に2本1組の採取びんを競技者が選ぶ。
?尿の採取
 サンプル取得者の見ている前で、最低75mlの尿を採取容器に採取する。
 検体2/3(50ml)をAサンプルと1/3(25ml)Bサンプルにわけ密封する。
?競技前3日間の使用薬物の申告
 これを怠ると薬物がサンプルから検出された際、処罰の対象となる。
?検体採取に関する確認
 競技者、付添い人及び検査責任者の検査記録者の確認署名。
 採取された検体は直ちにJOC指定の検査センターに運ばれ、Aサンプルの検査を行う。結果が陰性であれば検査はこれで終了となり、陽性の場合は後日、本人または本人の依頼人立会いのもとで再検査が行われ、再び陽性と判断されたら、「ドーピングを行った」とみなされます。また、検体採取を拒否した場合でも同様にみなされます。

 ★ドーピングの対象薬物
(1)禁止薬物
 A.興奮剤 コカインに代表される覚せい剤や心臓、血管、気管支ともに作用カフェイン、エフェドリンなど。

 B.麻薬性鎮痛剤 モルヒネ、コデイン等競技の苦痛を軽減し、多幸感や無敵感を覚える。習慣性が強く、禁断症状を起こしたり廃人になる可能性あり。

 C.蛋白同化ホルモン 男性ホルモンのテストステロンと関係のあるホルモンで筋肉増強剤として使われている。

 D.βーブロッカー 狭心症、不整脈、高血圧等に使用される薬剤。不安を除き、沈着冷静さを保つ、低血圧を起こす可能性あり。
 
 E.利尿剤その他

(2)一定の規制がある薬物
Aアルコール Bマリファナ C局所麻酔薬 D副腎皮質ホルモン
 以上がドーピングの対象薬物ですが、一般にはわかりにくいものです。ダンリッチ、PL顆粒、葛根湯などの風邪薬には禁止薬物が含まれています。高血圧症があり降圧剤の投薬を受けている場合にも禁止薬物である可能性があります。また、ビタミン剤や栄養剤と称したものや、ドリンク剤にも禁止薬物のカフェインやアルコールが含まれていますので、注意する必要があります。多量のコーヒーを短時間に飲むとカフェインが検出されることがあります。現在のところ、一般の競技会でドーピングコントロールが行われることはありませんが、上に列挙したような薬剤は長時間連用すると身体に良くない変化が出るということだけは確実です。日ごろから不要な薬は使用せず、もってうまれた身体をよく鍛錬してスポーツ活動を続けることが大切です。

〔文責:池田クリニック院長 日本体育協会公認スポーツドクター 池田 舜一〕 
「運動するに当たってのメディカルチェック」という言葉をよく耳にしますが、どういうことなのですか?
 
「運動するに当たってのメディカルチェック」という言葉をよく耳にしますが、どういうことなのですか?  昭和61年に、バレーボールのスター選手であったハイマン選手が試合中に急死した事故があって後、この言葉が頻繁に聞かれるようになったかもしれません。これは英語で健康診断を意味するMedical chek−upに由来するものだと思われます。運動中の事故を防止し、さらに十分なトレーニングの効果を挙げるためには、医・科学的な検査が必要であることはいうまでもありません。最近の日本では、摂取栄養の過剰から生活習慣病が引き起こされていることに対する認識が高まり、予防策として、一人1スポーツといわれるように持久性の運動を中心にして各種の運動を行うことが奨励されています。このような環境のもとで、健康マラソン大会など各種スポーツイベントが開催されています。この際に提出を求められる健康診断書がメディカルチェックを意味するものなのです。しかし現実に提出されているものは形式に過ぎず、本来の目的である事故防止を含めた運動の適否に触れているものは殆ど認められないのが現状です。運動はしばしば両刃の剣と言われるように、運動が身体に好影響を及ぼすことが多い反面、思わぬアクシデントを引き起こす可能性も持ち合わせています。それまで運動習慣のなかった人が、何かの目的を持ってスポーツ活動を開始する際に、より安全に、効果的にスポーツを続けていけるかどうかを判断し、どのような強さで、どれくらい行えばよいのか(運動処方)を作成するための、またきわめて高度なスポーツ活動を行っていく競技スポーツの場合は、運動処方(トレーニングプログラム)に従い、効果的な訓練を継続し、少しでも良い記録を達成するためにも、また、厳しいトレーニングをより安全に行っていくためにも必要な準備ということになります。すなわち、運動中の危険を防止し、運動効果を十分に発揮できるような運動指針を作れるよう、身体各臓器の状態を検査することです。
 
メディカルチェックの実際はどのようなものなのですか。
 
メディカルチェックの実際はどのようなものなのですか。  メディカルチェックの項目は表に示すとおりです。問診ではこれまでにかかった病気やけが、スポーツ歴、どんな生活をしていたかなど、個人の情報を収集します。特に家族に突然死があったかどうかなどは重要です。理学的所見とは聴打診のことでもチェックの基本です。さらに血圧測定、胸部レントゲン写真や尿、血液の検査を行い、運動により悪化する恐れのある病気がないことを確認します。運動中は身体にできるだけ多くの酸素を身体のすみずみまで運搬する血液を送り出す心臓は鍵となる機関で、心臓が十分な働きをするためには心臓自体に十分な量の酸素が供給されている必要があります。言い換えれば心臓壁の血液不足(冠危険因子)がないかどうかをチェックすることが重要です。このことは運動中に見られた突然死の殆どの例で、原因となった状況として循環器疾患(心臓病)があることより明らかです。このためにはトレッドミル(速さをコントロールできる室内ランニング装置)やエルゴメータ(抵抗を自由に変えられる固定した自転車)で実際の運動と同じ負担が心臓や肺にかかるようにして、そのときの心臓の血液状態を心電図をとおして確認します。(運動負荷テスト)。メディカルチェックの流れは図に示すようで、競技選手の場合、図の右下の負荷テスト→運動処方→トレーニング→負荷テスト が繰り返しで行われます。
 以上は内科的な面から見たチェックですが、運動器のチェックすなわち整形外科的チャックも合わせて行う必要があります。内科的なものを自動車のエンジンのチェックにたとえれば、整形外科チェックはいわば足回りのチェックとなります。基本的なものとしては身体各部位の連続性に見られる不整の有無(アライアント異常の有無)、筋肉や腱の柔軟性の検査、関節の稼動域(ROM)の検査、腹筋や背筋の筋力や持久力を調べる検査(脊柱機能検査)等が各種目に胸中の検査項目となります。
 以上がメディカルチェックの概要ですが、これはスポーツ活動を開始する前に一度だけ行えば全て完了というわけではありません。身体は刻一刻と変化しています半年〜1年に1度,メディカルチェックを受け、日常生活での健康・生活管理とあわせて、客観的、主観的に自己の身体状況を把握することが重要です。これにより、一時的、一過性の変化や変調をチェックすることも、安全にスポーツを行う上で必要です。スポーツ活動に参加する当日の事故チェックポイントをあげておきましょう。
1)熱はないか
2)身体はだるくないか
3)よく眠れたか
4)食欲はあるか
5)下痢してないか
6)身体に痛みはないか
7)昨日の疲れが残ってないか
8)スポーツに参加する意欲は十分か
等でしょう。
 最後に一言付け加えますと、健康保険は病気になったときに使うことが大前提になっておりますので、メディカルチェックを目的としたこれらの各種検査に健康保険は使えません。

〔文責:池田クリニック (財)日本体育協会公認スポーツドクター 池田 舜一〕 
今私が監督をしているサッカーチームに、学校の検診で房室ブロックと診断された選手がいますが、このまま続けさせて良いのでしょうか?
 
(係より:この質問のように、学校検診で指摘された心臓疾患にかんする質問が幾つか寄せられておりますので、まとめて答えていただきます。)

 スポーツを始める前にメディカルチェックを受けることは大切なことです。心臓においては隠れている心臓の病気の悪化や突然死などの事故を防ぐことが目的です。特に不整脈、心肥大(心筋の肥大)、心筋の虚血(酸素不足)などに注意しています。しかし何か所見があるからといって、全てにおいて運動を制限したり禁止する必要はありません。よく見極め、いかに判断するかが大切です。

今回、いくつかの質問について、二回にわたり簡単に解説することにします。

1:不完全右脚ブロックを指摘された場合

 心臓のなかには刺激を発症することがあり、刺激伝導系を通り、心筋に伝導され、一分間60〜80回拍動しているわけです。その伝導路のひとつ、右足での伝導が障害された状態です。

 多くは基礎疾患がなく、スポーツ選手にも時々認められる所見です。心房中隔欠損症など生まれつきのもの、心臓の手術後、心筋梗塞(高位後壁梗塞)、WPW症候群(A型)などの基礎疾患が除外できれば、全くスポーツの制限はいりません。

 図1は、17歳男子陸上部長距離の選手です。前胸部V1誘導でrSr’波形を示しています。心臓検診の結果、精査目的で来院しました。心臓超音波検査も含め精査にて、基礎疾患は認められず、そのまま活動は継続させています。

 スポーツ選手にみられる理由は、運動により肺から右心室への容量負荷や右心室筋のためなどと考えられています。

2:房室ブロックを指摘された場合

 これも心臓の中の刺激伝導系の異常です。すなわち、心房と心室の間の刺激伝導が、障害のためにうまくいってない状態です。この現象は一過性に現れる場合と、そうでない場合があります。

 種類も多く、第1度房室ブロック、第2度房室ブロック(Wenchebach型、第1型とMobitz型、第?型)、高度房室ブロック、第3度(完全)房室ブロックなどさまざまです。これらの中にはしかるべき治療を要するものもあり注意を要します。

 第1度房室ブロックやWenchebach型第2度房室ブロックはスポーツ選手にもよく見られる所見です。運動中は全く正常な心電図所見(洞性頻脈)を示しますが、安静時によく認められます。(図2,3)高度の迷走神経緊張の状態において生じ、もちろん一般健常者にも認められることができます。運動負荷試験や24時間ホルター心電計の検査により、機能的なものと判断できれば、運動制限・禁止の必要はありません。

 一方、Mobitz型2度房室ブロックや完全房室ブロックなどの場合、多くは心筋梗塞、心筋炎また心筋の後退性変化などによる器質的な心臓の病気を伴っています。失神発作や不完全に対し、人工ペースメーカー植え込み手術もあります。これらの場合はスポーツの適否以前に精査と治療の方が先決問題です。

 図2は、中3女子剣道部員。「練習で疲れる。」ことを主訴に来院。Wenchebach型第2度房室ブロック所見を示しています。2ケ月後の大会で部活は終了するため、そのまま継続を指示。

 図3は、高3男子陸上部駅伝選手。高1で第1度房室ブロック、高3でWenchbach型第2度房室ブロックを指摘され、競技生活の断念を勧告されたため来院。「練習直後のふらつき」の訴えがありました。運動負荷試験、24時間ホルター心電計検査で運動中の異常はなく(正常洞律動)、安静時に前記所見を認めました。図2,3とも、スポーツ心臓、前述した副交感神経緊張状態による機能的変化です。特に図3の例は「クールダウンをしっかりするよう」指示し、競技生活は終了させました。
 今回は不完全右脚ブロックと房室ブロック、心臓の中の刺激伝導系の問題について少し述べました。これらの中には一部治療が必要な場合もあります。循環専門医を訪れ、しかるべき検査を受け、それからスポーツの適否を相談して下さい。
 
〔文責:五味渕内科医副院長 (財)日本体育協会公認スポーツドクター 日本水泳連盟医事医院 五味渕秀幸〕  
スポーツをする前に心臓に関するメディカルチェックを受けることの重要性は前回も述べました。今回は、肥大型心筋症と川崎病について解説します。
 
スポーツをする前に心臓に関するメディカルチェックを受けることの重要性は前回も述べました。今回は、肥大型心筋症と川崎病について解説します。   係より:前回に引継ぎ、学校検診で指摘された心臓疾患に関する質問について、循環器疾患専門の(財)日本体育協会公認スポーツドクターの五味渕先生に答えていただきます。

A:スポーツをする前に心臓に関するメディカルチェックを受けることの重要性は前回も述べました。今回は、肥大型心筋症と川崎病について解説します。
1:肥大型心筋症が疑われる場合
 肥大型心筋症とは、心臓の筋肉の病気です。特に左心室の筋肉が病的に肥大するわけです。原因ははっきりしません。なぜ問題になるかといえば、運動中に限らず突然死を起こしやすいからです。
 自覚症状は全くないこともありますし、労作時の息切れ、動悸、呼吸困難、胸痛などの訴え、さらには失神することもあります。
心電図検査で疑われることが多く、その所見もいろいろありますが、巨大陰性T波を伴う左室肥大所見(図1)などは特に注意が必要です。疑われる場合は心臓超音波、さらには心筋生検も含め、心血管造影の検査もすることがあります。左心室の中でも心筋が肥大する個所により、いくつかのタイプがありますが、肥大型閉塞性心筋症(大動脈弁下、左心流出路での肥大)はやっかいです。
 突然死の機序については心拍出量の低下や不整脈によることが推測されます。
 スポーツ参加の適否を決める場合、ケースバイケースですが、かなり慎重になります。スポーツ中前述した症状が出現する場合は、当然スポーツを禁止することになります。しかし全く自覚症状がない場合、運動を禁止させることはかなり難しいことです。運動を禁止したからといって、突然死を防ぐことが出来るわけででもないからです。ただ、激しいスポーツや息む要素が加わる運動は禁じておいた方が無難に思います。競技レベルでない軽いスポーツは許可してもよいと思われます。もちろん医師による定期的チェック、βブロッカー内服、生活がしっかり管理されていることが原則です。

2.川崎病の既往のある場合
 川崎病も発見されてまだ20年足らず、病院も長期予後もまだはっきりわかっていません。乳幼児期に好発し、心筋に酸素を送る冠状動脈に動脈癌なる後遺症を残すことがあります。(図2)さらにはこの冠状動脈癌のなかに血栓を生じ、スポーツ中突然死の原因にもなります。
 この病気がスポーツ参加の適否に絡んで問題になってくるのは小学校から高校、つまり学校管理下の時期ということになります。心臓検診時に「川崎病の既往あり」と申告した場合、後遺症として冠状動脈癌があるかどうかを調べるための2次あるいは3次検診を受けることになります。負荷心電図、心臓超音波、心筋シンチグラフィー、更には冠状動脈造影などの検査があります。
 その結果後遺症がないか、あっても継承の場合は、制限はまったく不要です。中等症の場合は激しさを要求する高度の体育系部活動は一応禁止させますが、体育系部活動と激しい体育実技も禁止となり、運動の制限が必要となってきます。
 ただ、「川崎病の既往あり」というだけで、心臓の後遺症もないのに、不要な運動制限を加えることには十分注意すべきだと思います。
 今回は心臓の器質的疾患と。スポーツ参加について述べてきましたが、同じ疾患でもスポーツをさせてよいものと制限を受ける場合がありますので専門医に相談してください。

〔文責:五味渕内科医院 副医院長 五味渕 秀幸〕 
先日指導している女子選手が痙攣症状を起こして、救急車を呼ぶことになってしまいました。あとで家族から「病院で診断は『過呼吸症候群』ですので、余り心配する必要はない。」と言われました。過呼吸症候群とはどんなものか分からないので、教えて下さい。
 
 まず、○○症候群とは○○病と同じことで、いくつかの症状や徴候が集まっている状態をさし、ひとつの病気と考えられている時に使うものです。皆さんが時にかかる風邪は風邪症候群とも言います。過呼吸症候群は過換気症候群ともいわれ、肺胞での換気量が過度に増加する状態で、心配性の一種です。
 運動選手にも時折見られる症候群でもあり、監督・コーチ・トレーナーなどの指導にあたる人は理解しておく必要があると思われます。
 発作性にみられる呼吸促迫(呼吸が速く、数多くなること)と、呼吸困難、胸部の圧迫感、四肢と顔面とくに口辺のしびれ感、めまい、発汗、さらに激しいときは手足の緊張性痙攣、テタニー、全身痙攣、などがみられますが、診察により得られる所見に特徴的なものはありません。この病態は必要以上の換気が持続することで、動脈血中の炭酸ガスの含量が低下し、血液のpHが上昇(アルカローシスと呼ばれます)します。そのような状態では、1)脳血管は収縮して脳症状を、2)血清カルシウムイオンやカリウムイオンが低下したり、あるいはアルカローシスが直接的に作用し筋肉の症状を、3)交換神経刺激が胸部症状(心臓症状)を、それぞれ起こしてくれると考えられます。
 発生の誘因としては身体的なもの(運動・疲労など)と、心理的なもの(緊張・興奮など)とが考えられていますが、それらのことにより、からだが必要としている以上の換気を始めてしまうことになります。
 発作時の症状としては前に挙げたような様々な症状がありますが、呼吸困難発作はこの病気では必ずおきる症状です。「空気が肺へ入ってゆかない」とか「うまく空気が吸えない」と表現されますが、窒息感とは違うようです。呼吸困難発作は放置しても30−60分でおさまるのが普通です。また、不安感があり、これに基づく過換気とそれに伴う多彩かつ激烈な症状が起こります。この、多彩かつ激烈な症状は不安感を増大し、過換気をさらに強めて悪循環に陥る訳です。この場合、普通の人の頭の中に「息苦しい時に大きな息を!」という既成概念がありますので、間違った指令を呼吸筋にだしてしまい、悪循環のもととなっているわけです。したがって、既成概念のない幼児や洸惚の人には起こりません。多感な年頃、とくに若い女性に多く発生しています。

 呼吸器系以外の症状には次のようなものがあります。
1) 循環器系 動悸、胸部圧迫感、胸部狭扼感、胸痛
2) 神経・筋 テタニー型の強直性痙攣で上肢は特異な型をとります。四肢末端・口唇のしびれ感や、頭痛、めまい、意識障害(これは完全な意識喪失ではなく、周囲のことは分かっているが夢心地で自分ではどうにもならない感じといわれています。)などです。
この症候群に対する対処法の中心は何らかの方法で吸入気CO2濃度を上げることです。そこで、治療としては、紙袋やビニール袋で口および鼻を被い、自分の呼吸を再吸入する方法を行います。また、鼻で呼吸を行い、ゆっくりと口で呼吸を行う呼吸法を教えることの重要性を強調する人もいます。(紙袋反復呼吸:paper bag rebreathing,または息こらえ:breath holding)
 突然目の前で痙攣発作が起こったとき、何らかの徴候から過呼吸症候群が疑われたならば、周囲の者は落ち着いて前述の事柄を試み、改善の見られない場合には医師に診てもらうべきでしょう。なぜなら鑑別診断しておかなければならないものには次のような重要な疾患が挙げられるからです。
1. 喘息・・・(喘息の重傷発作ではチアノーゼがみられますが、本症ではありません
2. 心筋梗塞・・・(症状が違います。チアノーゼもみられます。)
3. てんかん・・・(てんかんの発生は本症より短く、意識障害の程度が違います。)
4. 副甲状腺機能低下症・・・
5. 脳血管障害・・・(発症年齢、既往歴、身体所見が違います。)
6. 低血糖・・・
7. ヒステリー・・・(paper bag rebreathingは無効です。また、怪我をするような倒れ方はしません。)
 重要なことは、本症は機能的疾患ですので生命的予後は良好です。呼吸生理に立脚した病態をよく理解して、器質的疾患でないことが重要です。また、発作が起こっても紙袋反復呼吸で容易におさえることを納得させることも大切です。しかし本症の元になっているのは感情に基づく不安症候群で、不安を除かないとなかなか直し難くいものです。このような時は精神科医による精神分析、自律訓練が必要で、心に秘めた不安感を解決してやることが大切です。本症は暗示にかかり易い情緒不安定者に多く、指導者の軽はずみな発言や新聞、テレビの報道が引き金となる、mass−communication made diseaseの場合も多いといわれています。

〔文責:池田舜一 池田クリニック院長、日本体育協会公認スポーツドクター〕 
喘息児に運動させることはよいのでしょうか? また、運動させるとしたらどのようなことに注意すればよいでしょうか?
 
 運動により喘息発作が生じることを、運動誘発喘息といいます。それでは喘息を持っている子どもは発作が起きるので、運動してはいけないのでしょうか?いいえ、そのようなことはありません。子どもが運動をすることは、体の成長・発達や精神的発達の促進に役立ちます。また、ストレス解消や成人病の減少にもつながります。
  発作が起きる条件やその対処方法を理解していれば運動は可能です。その運動誘発喘息が起こりやすい条件とは?喘息が重症な患児、?激しい運動、また持続時間が5分から10分くらいの持続運動、?冷たく乾燥した環境の中での運動などです。?の場合には自分の子どもが軽症喘息なのか重症喘息なのか両親が把握することが大切と思われます。また、喘息日誌をつけることによって、毎日の状態を把握することも一つの方法と思われます。その他、呼吸機能を簡単に把握できる器具(ピークフローメーターといいます)などがあり、運動前に測定することによって運動が可能かどうか判断できますし、内服薬や吸入などでも発作の予防ができます(近年発作予防に有効な新しい薬も出ています)。このようなことを主治医の先生に相談するのも一つの方法です。?の場合には十分な準備運動や腹式呼吸を練習し実行したり、数日ごとに徐々に運動の強さや量を増やしたり、運動と休息を繰り返すインターバルトレーニングなどが有効です。?の場合にはマラソンなどに起きやすく、加湿されたところでやる水泳などは比較的起きにくいと言われていますが、水泳に拘わらず、患児が好きな運動なら問題ないと思われます。正しい指導と正しい理解があれば、どのような運動でも可能です。
  アテネオリンピックに出場する選手の中にも小児喘息だった選手がいるようです。運動も喘息治療の一つですので主治医やスポーツ専門医に相談してみてください。

〔文責:あんどう こども クリニック院長・日体協公認スポーツドクター 安藤 保〕  

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第69回国民体育大会 関東ブロック大会